最新記事

2016米大統領選

元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」

2016年10月25日(火)14時55分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

わいせつ発言後「それでも投票する?」と聞くと...

 伝統的に「大きな政府」よりも「小さな政府」を重んじる共和党支持者にとって、保険加入を義務付けるオバマケアは個人の自由の侵害にほかならない。またラールは、オバマが議会の審議や承認を必要としない「大統領令」を連発してきたことを左派が招いた「三権分立の危機」と見ており、大統領による権力の乱用を防ぐ役割として最高裁の重要性がますます増していると言う。

 今後、銃規制や人工妊娠中絶の問題についても最高裁が憲法判断を仰がれるなか、保守とリベラルで見解に大きな隔たりがある問題について、クリントンがオバマの跡を継ぎ、彼女の選んだ判事がリベラル寄りの判断を下していく可能性に共和党支持者は危機感を募らせている。

 取材後、トランプがわいせつ発言で猛バッシングを受けるなか、10月半ばに改めてラールに「それでもトランプに投票するか」と聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきた:


イエス、私はトランプに投票する。2人の候補者は、どちらも「災害」のようなもの。だが選択の基準はとても簡単だ――この国にとって、どちらの候補者がより少ない「永久的な」被害を残すかどうか。最高裁の問題で考えると、私はトランプだと思う。トランプに投票する唯一の理由は、クリントンがそれだけひどいからだ!

 ラールのように多くの有権者が「残念な」気持ちで投票所に向かうのだとしたら、アメリカの病巣は根深い。

参考記事【ニューストピックス】決戦 2016米大統領選

◇ ◇ ◇

 今年の大統領選は、言わば「嫌われ者」同士の対決だ。8月末の時点で、トランプ、クリントンの両者とも有権者の不支持率は60%に上っていた。

 それでも投票日はやって来る、あと2週間で――。どちらとも嫌いな人は、より嫌いな候補の当選を阻止するために投票せざるを得ないという「究極の選択」を迫られている。

 本誌は10月上旬、ニューヨーク州でトランプ支持者とクリントン支持者の声を聞くべく、一般人への取材、撮影を行った。ここで紹介したピーター・ラールを含む11組の有権者から聞き出した「本音」とポートレートを、本誌2016年11月1日号(10月25日発売)の写真連載Picture Powerにて掲載している。

撮影:Q.サカマキ
写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争----WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。 http://www.qsakamaki.com
本誌ウェブサイトで「Imstagramフォトグラファーズ」連載中

※後編:レストラン経営者「私はヒラリーの大ファンだ」


※当記事は2016年11月1日号
 p.42~47の「Picture Power」の関連記事です。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バングラ総選挙、来年2月に前倒しの可能性 ユヌス首

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中