最新記事

中国

文革の真実を求める中国国民を黙殺する「日中友好」の呪縛

2016年10月18日(火)11時20分
楊海英(本誌コラムニスト)

Siu Chiu-REUTERS

<文化大革命の最新研究が明かすモンゴル人大虐殺や「革命的食人」。真相解明を嫌がるのは習政権か日本の「進歩的知識人」か>(写真:毛沢東の肖像と天安門事件の学生の写真が組み合わせられた香港の展示)

「アメリカで南北戦争のシンポジウムができないことがあるだろうか。アメリカ人がわざわざ北京に避難して開催するようなことはあり得ない」

 このように発言したのは、ある著名なアメリカ人の中国研究者。6月末に米西海岸で行われた「毛沢東の遺産と現代中国」という文化大革命(文革)国際シンポジウムでの発言だ。アメリカに大きな傷痕を残した歴史的内戦を例に挙げて、文革に関する研究会が開けない中国の現状を批判した。

 今年は文革が発動されて50周年に当たる節目の年。アメリカではこのシンポジウムを皮切りに、文革関係の研究会がめじろ押しだ。一方、本国の中国では文革は禁句なだけでない。文革記念館のような数少ない民間施設もすべて閉鎖されるか、「愛国主義教育基地」に改造されるかの運命をたどっている。

 私も招待された6月のシンポジウムには100人以上の研究者らが集まった。中国からの参加者らはいずれも、厳しい出国制限をくぐり抜けてきたという。

【参考記事】歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

 印象的だったのは、アメリカ人研究者らの中国に対する姿勢だ。アメリカには「屠竜派」や「抱擁熊猫(パンダ)派」のような表現があるように、「暴れる狂竜を屠(ほふ)るべき」という強硬派もいれば、「平和的に台頭しているパンダを抱擁せよ」という穏健派もいる。

 ただ、それは総じて中国に接する姿勢の問題でしかない。思想的には、中国はソ連崩壊後に残った共産主義の脅威の源であるという点で、アメリカ人研究者の見解は一致している。

テレビ局が恐れた「意見」

 アメリカと異なって、日本はまさに思想やイデオロギーの面から中国を直視できないでいる。文革研究をする私のところにも日本の大手テレビ局のスタッフが訪ねてきて、文革の番組ができないか話し合ったことがある。

 世界の最新の研究成果を取り入れなければ放送の意味がない、と私は伝えた。例えば、米シンポジウムで研究者たちは、文革の被害者が最も多かったのは内モンゴル自治区と広西チワン族自治区だった、と報告した。

 内モンゴルでは中国人(漢民族)による一方的なモンゴル人ジェノサイド(集団虐殺)が発生。広西では「階級の敵」とされた者が共産党幹部らに食される「革命的食人」が横行した事実は、今では広く知られている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大企業製造業・業況判断DIは+15=12月日銀短観

ビジネス

MDV、日本生命によるTOB「検討中」 決定事項は

ワールド

世界各地でユダヤ教行事の警備強化、豪ビーチ銃撃受け

ワールド

チリ大統領選で右派カスト氏勝利、不法移民追放など掲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中