最新記事

欧州難民危機

スウェーデン亡命センターで自死、目的地に着いた難民少年は何故絶望した?

2016年10月5日(水)19時14分

9月22日、難民少年の悲劇は、移民・難民に対し最もオープンな政策を取るスウェーデンのような国においてさえ、受け入れの限界にあることを露呈している。写真は、難民に付き添う警察官。スウェーデン南部マルメ郊外の駅で昨年11月撮影(2016年 ロイター/Johan Nilsson/TT NEWS AGENCY/File Photo)

 4月のある朝、スウェーデン南部ブレーキンゲ地方の静かな村で、アフガニスタン人の少年、ムスタファ・アンサリさんの旅は終わりを迎えた。

 若い亡命希望者のためのセンターに身を寄せていた10代のアンサリさんが自室で亡くなっているのを、センターの職員が午前7時ごろ発見した。その後の調査によると、2段ベッドのシーツがあまりにきつく首に縛りつけられていたため、職員はナイフで切らなければならなかったという。

 サッカー好きだった少年の部屋には、覚えたてのスウェーデン語を書き込んだ、色とりどりの付せん紙が至るところに貼られていた。

 死因は自殺と断定された。検視報告書には17歳と書かれていたが、アンサリさんの身元についての書類はない。スウェーデンに9カ月滞在していたが、移民当局はアンサリさんの亡命申請のための面接を一度も実施しないままだったからだ。

 欧州での移民・難民危機において、アンサリさんは新たな種類の犠牲者である。多くの難民が欧州にたどり着く前に命を落とすなか、アンサリさんは無事に目的の地へとやって来ることができた。だが実際には、対処しきれないほど大量の申請手続きにパンク状態となっているスウェーデンの現状に巻き込まれることになった。

 アンサリさんの悲劇は、移民・難民に対し最もオープンな政策を取るスウェーデンのような国においてさえ、受け入れの限界にあることを露呈している。2015年以降、保護者不在で独り欧州にやって来た若い亡命希望者は10万人以上いるが、彼らが直面する不安やリスクをも浮き彫りにしている。

 スウェーデンは長い間、難民を歓迎しており、人道的な実績を自負している。2013年9月には全てのシリア難民に門戸を開き、人口当たりでは他のどの欧州諸国よりも亡命希望者を受け入れている。

 しかし昨年、移民・難民100万人以上が不法に欧州に押し寄せるなか、大量の亡命申請によって至るところで手続きが停滞しており、スウェーデンは対処しきれていないことを明らかにした。

 同国で手続きにかかる時間は、過去5年で3倍近くに増加。2011年には3カ月余りであったのに比べ、現在では中央値で9カ月超を要する。2014年以降、保護者のいない未成年者1000人以上の状況が分からなくなっており、そのうち3分の1がアフガニスタン人の男子だという。

 スウェーデンは昨年11月、移民受け入れ数を制限し始めた。ロムソン副首相は、テレビでこのことを涙ながらに発表した。

「あまりに長きにわたり、あまりに多く(の移民)を受け入れてきた」と、ロベーン首相も当時語っていた。また移民担当相は今月、保護者のいない未成年の移民に対し、スウェーデンほど処遇良く受け入れた国が他にあるとは考えていないと述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中