最新記事

世界経済

世界の債券市場、35年の強気相場終焉か? 日銀政策が転換点

2016年10月4日(火)10時19分

 9月30日、世界の債券市場で35年に及ぶ強気相場がついに終焉を迎え、地殻変動が起こる──。写真は、9月21日の金融政策決定会合後に記者会見で話す日銀の黒田総裁。日銀本店で撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

世界の債券市場で35年に及ぶ強気相場がついに終焉を迎え、地殻変動が起こる──。ベテラン投資家からこうした声が聞こえ始め、懐疑派も今回ばかりは無視できなくなっている。

エコノミストの見方では、債券市場を支えてきた人口動態やグローバル化の潮目がいよいよ変わろうとしている。そして日銀が9月21日、長期金利を操作すると発表したことは、暗に金融政策の限界を認めたものであり、重要な分岐点だと専門家は見ている。

ただ、低成長、低インフレ下とあって債券相場が変化するペースは遅いと見られ、こうした読みが正しかったかどうかが分かるまでには数年を要する可能性がある。

「2、3年後に21日のことを振り返って『日銀がすべての始まりだった』と言っている様子が容易に想像できる」と語るのは、ステート・ストリートのグローバル・マクロ・ストラテジー統括、マイケル・メトカルフェ氏だ。

米10年国債利回りは1980年代初頭の15%前後から現在の1.37%程度まで、着実に低下を続けてきた。日本とドイツの10年国債利回りは、数十年前に8%前後だったのが、今ではマイナスとなっている。

過去数十年の強気相場についてM&Gのエコノミストは、第二次大戦後のベビーブームによる労働人口の増加が、賃金を押し下げるとともに債券のような貯蓄資産への需要を高めたためだと説明する。

2008年の世界金融危機以降は、中央銀行が国債を大量に買い、直接的に利回りの低下に手を貸した。

過去10年間のロイター調査を見ると、エコノミストは一貫して中銀による成長と物価押し上げの力を買いかぶり、債券利回りを高く予想し過ぎてきたことが分かる。

しかし今、ドイツ銀行は債券相場をけん引してきた人口動態が「屈折点」に達したと指摘し、資産運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)は中銀の弾が尽きて利回りは上昇すると予想している。こうした指摘が以前より幅広く受け入れられるようになったのはなぜか。

1つには、折しも投資家が今、株と債券相場はともに天井だと感じ始めていることがある。

また「債券バブル」という言葉が広がり始めたことにも、投資家は警戒感を募らせている。ここ数週間、グーグルではこの言葉の検索件数が過去1年間で最多を記録し、豪シドニー・モーニング・ヘラルドや独ヴェルト、英タイムズといった一般紙も債券バブルの話題を取り上げるようになった。

LNGキャピタルのルイ・ガルグール最高投資責任者(CIO)は「この言葉を口にする人が増えれば増えるほど、現実化する可能性も高まる。投資決定は感情と分析が組み合わさって成されるものなので、自己実現してしまう」と話す。

もっとも、急激な相場の反転は見込まれていない。

各国政府は多額の債務を抱え、財政刺激策を打ち出して需給ギャップの緩みを解消する余裕は乏しい。しかも目いっぱい債券を抱え込んだ銀行は、利回りが急上昇すれば打撃を被るため、当局は懸命にインフレを抑えようとするだろう。

PIMCOの債券CIO、アンドルー・ボールズ氏は「(利回りが)5、6%に上昇するという主張に比べ、1.5─2.5%に上昇するという話はずっと穏やかだ」と言う。

ただ、もっと深刻なシナリオもある。

M&Gのリテール債券統括、ジム・リービス氏は、英国の欧州連合(EU)離脱や米国のトランプ現象に見られるように、世界の貿易、労働政策が保護主義的色彩を強める兆しがあると指摘。「グローバル化が反転すれば、インフレ率は上昇し、債券市場は大荒れになる」と見ている。

(John Geddie記者)



[ロンドン 30日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

シリアの包括的な無宗派の統治への移行望む=米国務長

ワールド

米、シリア情勢注視 反体制派・イスラエル・トルコ・

ビジネス

米単位労働コスト、第3四半期改定値は0.8%上昇に

ワールド

イスラエル、シリア南部に防衛地帯設置へ ゴラン高原
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新研究が示す新事実
  • 4
    無抵抗なウクライナ市民を「攻撃の練習台」にする「…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 9
    ジンベエザメを仕留めるシャチの「高度で知的」な戦…
  • 10
    ティラノサウルス科の初記録も!獣脚類の歯が明かす…
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中