最新記事

情報セキュリティー

NSAの天才ハッカー集団がハッキング被害、官製ハッキングツールが流出

2016年8月22日(月)19時15分
ジュリアン・サンチェス(米ケイトー研究所上級研究員)

 シャドーブローカーズの正体や動機が何であれ、この事件は米政府の情報セキュリティー政策に関する明確な教訓を提示した。1つ目の教訓は、セキュリティーの脆弱性を開示する「脆弱性公平プロセス(通称VEP)」を取り巻く懸念だ。VEPは、米政府の情報機関がサイバーセキュリティ―上のシステムの弱点を発見した際、欠陥を修復するようシステム開発者へ通知するかどうか、またどのタイミングで通知するかの手順を定めたものだ。

 2014年、米政府のサイバーセキュリティ―調整官を務めるマイケル・ダニエルはホワイトハウスの公式ブログで、同プロセスは脆弱性の積極的な開示を強く支持するものだという米政府の見解を強調した。「インターネットに山のような脆弱性があると分かっていながら開示せず、問題を放置して国民の身を危険にさらすことは、アメリカの安全保障上の利益にならない」

 しかしそれを言うなら、あらゆる基準に照らして最も開示されるべきだったのがシスコの脆弱性だった。NSAはそこから、エクストラベーコンを使ってネットワークに侵入していた。それはかなり大きな欠陥で、ネットワークのすべてのトラフィックを監視できる。シスコは世界最大級の通信機器メーカーなので、その製品がハッキングされれば、アメリカと外国の膨大な数の企業が攻撃対象になる。

NSAでさえ秘密の盗難を防げない

 だからこそ、NSAにとってエクストラベーコンは価値の高いものだった。そして一時的にでもそれを使いたい誘惑も強かっただろう。その決断は、最初は正しかったのかもしれない。だが、3年の間、シスコにそれを通知しなかったことは言い訳のしようがない。その結果、シスコだけでなくシスコの顧客までが、いつ悪意のハッカーに襲われるかわからない状態にある(シスコはまだ修正パッチを出していない)。もし襲われれば、企業活動が麻痺するのは必至だ。

 このハッキング事件はまた、暗号化されたソフトやサービスにも裏口を作って、いざというときFBIやCIAのような「正義の味方」が犯罪者やテロリストの通信履歴を調べられるようにするべきだ、という政府の言い分も怪しいものだと思わせる。

 もしNSAでさえ自らのハッキングツールを守れないなら、専門家でないFBIやCIAが「裏口」をハッカーたちから守れるだろうか。ハッカーたちにばれてしまえば、彼らはその裏口から数百万という他のユーザーのアカウントに侵入するだろう。イクエージョングループのハッキングは、それを雄弁に物語っている。一度裏口を作ったら、そこを通るのは善人だけだとは決して保証できないのだ。

This article originally appeared on the Cato Institute site.
Julian Sanchez is a senior fellow at the Cato Institute.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

従来の貿易システム「失われた」 WTO事務局長、改

ワールド

ECB総裁、原油供給混乱の長期化を警告 早期正常化

ワールド

イラン、スペインは「国際法順守」 ホルムズ海峡巡る

ワールド

欧州各国とカナダの防衛費、25年に20%増=NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRANG』に託した想い、全14曲を【徹底分析】
  • 4
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 5
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 6
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 7
    トランプが誤算? イラン攻撃延期の舞台裏、湾岸諸国…
  • 8
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 9
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中