最新記事

情報セキュリティー

NSAの天才ハッカー集団がハッキング被害、官製ハッキングツールが流出

2016年8月22日(月)19時15分
ジュリアン・サンチェス(米ケイトー研究所上級研究員)

Balefire9-iStock.

<米国家安全保障局(NSA)のエリート部隊で構成されると思われている天才ハッカー集団Equation Groupが先週末、ハッカー被害に遭った。攻撃した「シャドーブローカーズ」は盗んだハッキングツールを公開し、価値のあるものはオークションにかけると言っている。盗まれたツールのなかには米国内外の多くの企業や個人を危険に晒すものもあり、NSAのやり方にも改めて批判が集まっている>

 まるでハリウッド映画に登場しそうな現存のハッカー集団といえば「EquationGroup(イクエージョングループ)」だ。世界で最も複雑で巧妙な技術を駆使し、世界中の政府や企業に次々とサイバー攻撃を仕掛けることで知られる。昨年ロシアの情報セキュリティー大手カスペルスキー研究所が初めて存在を突き止めるまで14年間、その存在さえ知られていなかった謎の天才ハッカー集団だ。その正体は米国家安全保障局(NSA)だというのがもっぱらの噂で、NSAのエリート部門TAO(Tailored Access Operations unit)をベースに活動している可能性が高いとされる。

 ところが先週末、そのイクエージョングループが、ハッキングの被害に遭ったというニュースが世界を駆け巡った。「シャドーブローカーズ」と名乗るハッカー集団が、イクエージョングループがハッキングに使う攻撃ソフトやコンピューターウィルスの情報を流出させ、一部のファイルをネット上に公開した。とくに付加価値の高いソフトウエアについては、ネット上で入札を実施して最高額の落札者に売却すると呼びかけた。

【参考記事】パソコン一台で航空機を乗っ取り?

 米政府は流出したとされるファイルの信ぴょう性を認めていないが、NSAの元ハッカーら情報セキュリティーの専門家は、本物という意見で概ね一致している。事実、それらのファイルには、米通信機器大手シスコシステムズ製のルーターのネットワーク上の脆弱さを突いて、修正プログラムが普及する前に攻撃を仕掛ける「ゼロ攻撃」を可能にする「エクストラベーコン」と呼ばれる暗号鍵も含まれていた。

【参考記事】エドワード・スノーデンはどうしてNSAを裏切ったのか?

 特に懸念されるのは、流出したファイルが2013年以降に作成されたものであることから、シャドーブローカーズや彼らが公開したファイルを入手した不特定の集団や個人が最長で3年間、政府や企業の機密ネットワークに自由に侵入できる状態にあったという点だ。

犯人はNSA内部にいる?

 シャドーブローカーズが公表したファイルのリーク元について、現時点で最も有力な説は、イクエージョングループがサイバー攻撃を仕掛ける際に使う「テストサーバー」に侵入可能なNSA内部の関係者か、外国の情報機関による仕業だという見方だ。

【参考記事】スノーデンが暴いた米英の「特別な関係」、さらに深まる

 2013年にNSAが極秘裏に大量の個人情報を収集していることを暴露して訴追され、ロシアに亡命中の米中央情報局(CIA)の元職員エドワード・スノーデンによると、以前にもNSAのサーバーは外国のハッカー集団によるサイバー攻撃を受けたことがあった。ただしNSAを攻撃したハッカー集団がその事実を公表したのは、今回が初めてだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾最大野党主席、中国版インスタの禁止措置は検閲と

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研

ワールド

台湾、中国の軍事活動に懸念表明 ロイター報道受け

ビジネス

市場動向を注視、為替市場で一方向また急激な動きもみ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中