最新記事

医療援助

アイラブユー、神様──『国境なき医師団』を見に行く(ハイチ編11最終回)

2016年8月17日(水)17時30分
いとうせいこう

俺たちへのメッセージ

 翌日、マイアミへ飛ぶ機内で滞在中撮りためた画像を見、最後の一枚をじっと眺めるうちに気づいた。

 乗っていた四駆の窓越しに、バラックの壁が写っていた。

 その壁の中、間に合わせの木で作った扉にひとつの落書きがあった。

 俺は思わず声を出しそうになった。

 拡大してみると、そこには確かにこうあった。


I LOVE YOU Jesus

 あれほどの苦境の中で、と思った。

 そして、書かれた言葉が英語であることに気づき、俺はさらなる衝撃を受けた。

 フランス語でもクレオール語でもない以上、それは"外側"の俺たちに向けてのメッセージなのだった。

 我々は神を愛している。

 憐れむなよ、と言われているように思った。

 憐れまれるべきはお前たちだ、と言われているようにさえ思った。

 ハイチの民がどんなにプライド高い人々であるか、スラムの扉のそのたったひとことが傷跡のように俺の目の奥にはっきりと残った。

ito0817_5.jpg


ハイチ編終了(次週はまた世界の別な場所からお送りします)


追記
 この連載を始めてすぐ、ハイチで出会ったMSFスタッフが「逐一読んでくれている」と聞いた。
 紘子さんが直接訳したり、各々が自動翻訳ソフトを使って、英語やフランス語にしているというのだった。
 俺は感激したし、彼らが読んでくれていることが大きな励みとなった。

 ここで彼らハイチの友人たちに書いておきたい。
 あなたがたを尊敬し、人間として誇らしく思っています。

SEIKO ITO


profile-itou.jpegいとうせいこう(作家・クリエーター)
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。最新刊に長編『我々の恋愛』。テレビでは「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)などにレギュラー出演中。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。オフィシャル・サイト「55NOTE

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米陸軍、ドローン100万機購入へ ウクライナ戦闘踏

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用に懸念も=N

ワールド

ロシア、アフリカから1400人超の戦闘員投入 ウク

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中