最新記事

トルコ

アメリカは大粛清を進めるトルコと縁を切れ

2016年7月29日(金)16時20分
テッド・カーペンター(防衛問題専門家)

独裁化を進めるエルドアン大統領 Umit Bektas-REUTERS

<クーデター未遂の後、トルコのエルドアン政権は軍部や司法関係者、公務員、報道機関など大規模な粛清に着手した。政権は独裁化して今や民主主義よりプーチン政権下のロシアに近い。アメリカはNATOの同盟関係を見直さなければ、いざというときトルコを防衛するはめになる>

 トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は今月17日、軍事クーデターを一夜にして制圧した。エルドアンの呼び掛けに応じた多くの支持者が武装した反乱兵士に立ち向かってくれたおかげでもある。だがこの反乱派に対するこの勝利は、民主主義や法の支配の強化にはつながらなかった。むしろかねてから懸念されていたとおり、エルドアン政権はイスラム主義的な独裁化を急加速させている。

【参考記事】あの時、トルコ人はなぜ強権体質のエルドアンを守ったのか

 クーデターが発生した時、アメリカのバラク・オバマ大統領は即座にエルドアン政権への支持を表明した。トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国で、対ISIS掃討作戦の前線を担う重要なパートナーだ。シリア難民のコントロールをトルコに頼るヨーロッパ諸国もほとんどがアメリカに追随した。

 クーデターが鎮圧された時、これらNATO諸国の指導者は、一様に安堵したことだろう。同盟国が軍事独裁国家となる厄介な事態は回避できたからだ。

 だが安堵は長くは続かなかった。エルドアン政権は、数百人の上級将校をはじめ軍部の大粛清を始めただけでなく、これまで長らく政権への権力集中を妨げてきた他の組織の粛清にも着手した。

【参考記事】トルコは「クーデター幻想」から脱却できるか

 その筆頭が司法組織や教育機関だ。罷免もしくは逮捕された判事は3000人近く、解雇された教員は2万1000人に及ぶ。この組織的な粛清の規模とスピードを見れば、これはエルドアンが長年温めてきた粛清案で、クーデターは口実に過ぎないことがわかる。アメリカは今、NATO加盟国の1つが実質的な独裁制に転じたという問題に直面している。

過去にも見て見ぬふりをした

 トルコへの不満は、ここ数年高まってはいたが、それでもこの数十年は概ね良好だった。何しろ、1974年にトルコがキプロスに軍事介入して北部地域を違法に占拠したときも、アメリカ政府は黙認したくらいだ。

 その後トルコ政府は、傀儡の北キプロス・トルコ共和国を樹立し、トルコ本土から数万人規模の植民を行ったが、アメリカ政府は形式的に抗議しただけだった。キプロス問題に無関心なアメリカ政府が、ロシアのクリミア併合に対して激怒して見せたところで、単なる偽善にしか見えない。

 最近になってエルドアンは、トルコの民主制度を根本から弱体化させるだけでなく、第1次大戦後に現代トルコの基礎を築いたアタチュルク初代大統領が確立した世俗的な政治体制も切り崩し、トルコをイスラム主義者の国家にしようとしている。

【参考記事】アメリカがギュレン師をトルコに引き渡せない5つの理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値

ワールド

被造物は「悲鳴」、ローマ教皇がCOP30で温暖化対

ワールド

サマーズ氏、公的活動から退くと表明 「エプスタイン

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中