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広東烏坎(ウカン)村村長逮捕の問題点――勘違いしている日本メディア

2016年7月26日(火)16時05分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 この規定を破ったのが、2012年に起きた「村民委員会メンバーをめぐる烏坎村抗議事件」である。

 だというのに、日本のメディアはほぼ一斉に、「中国建国以来、初めて勝ち取った村長の直接選挙」「異例の直接選挙」と書き立ててきた。2012年の時も筆者は「それは勘違いだ」と力説してきたが、聞く耳を持たなかったのだろうか。

 今般、その「村民委員会メンバーを取り換える選挙を行なった結果、村主任(村長)に選ばれた林祖恋氏の逮捕」によって、再び日本メディアでは「異例の直接選挙」とか「民主の村」といった言葉が飛び交い始めた。

 中国がまちがっているときは厳しく批判しなければならないが、日本の、中国に関する認識不足(誤認)によって、こういった報道が拡散していくのは、いかがなものだろうか。中国理解の役に立つとは思いにくい。

村長逮捕の正当性

 一方、村長逮捕の正当性に関しては、筆者も日本あるいは中国大陸以外の海外情報と同じく、懐疑的である。紛争の発端は、2011年に起きた土地強制収用に対する、当時の(前)村民委員会の不正利得にあったのだが、その抗議運動に反対して「初めて村民委員会のやり直し選挙」に成功して新たに村長(村主任)になった林祖恋氏が、同じように利権をめぐって不正をしたということになっている。

 それに対して村民が起こした抗議運動は、今のところ武力により抑えつけられている。

 烏坎村事件では、(3年)任期の途中で村民委員会及び村長(村主任)が変わったので、2014年にも、もう一度村民による直接選挙があった。このときも林祖恋氏が再選されている。

 最近、習近平政権は、反腐敗運動を、全国の「村民委員会」にまで展開していこうと呼び掛けている。

 その線上で林祖恋村長が逮捕されるに至ったのだが、実際に賄賂があったのか、それとも民主の芽を摘み取ろうとしたのかに関しては、さらなる慎重さ調査が必要だ。

村長が得られる利権とは?

 村長になった時に、どのような得があるのだろうか?

 あるいは、村長には、どのような権限が与えられるのだろうか?
これが実は、けっこう、バカにならないのである。

 まず村長を含めた村幹部は、国家財政から(それなりに高額の)給料をもらう。

 つぎに村には国から支給される多くの「活動経費」があって、この裁量権は村長および村幹部に委ねられている。それ以外にも水道管工事など、さまざまなインフラとか、観光地化するための経費とか、何かにつけて国家財政あるいはその村が所属する省レベル(この場合は広東省)の財政からも支給を得ることができる。その裁量権も村長と村幹部に委ねられている。

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