最新記事

国際政治

自由主義的な世界秩序の終焉

2016年7月1日(金)16時00分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

 冷戦後の自由主義者は、民族、部族、宗派などへの帰属意識や愛国主義が果たす役割を過小評価していた。古いものへの執着はだんだんに死に絶えて、政治色のない文化に変容するか、よくできた民主的な仕組みのなかで飼いならされるだろうと考えていた。

 だが現実には、自由主義者のいう「自由」より、国を愛する気持ちや歴史的な反目、国境や伝統を重んじる人々のほうが多かった。もしEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票に教訓があるとすれば、それは、有権者のなかには、純粋な経済合理性よりそうした感情に動かされやすい人々が存在するということだ。

ポピュリスト政治家の思う壺

 我々は自由主義的価値観が世界的に認められたと思いがちだが、別の価値観が勝つ場合もある。伝統的な秩序との摩擦がとくに大きいのは、社会的な変化が急激で予測不可能なときと、かつては同一性の高かった社会が短期間のうちに異質な人々を受け入れなければならなくなったときだ。

 自由主義者がいくら寛容の重要性や多文化主義の効用を叫んでも、一つの国で様々な文化が共存するのは簡単なことではない。文化的緊張が高まれば、それこそポピュリスト政治家の思う壺だ(「アメリカを再び偉大な国に!」)。郷愁の力は昔ほどではなくなったが、今でも十分恐るべき力を発揮する。

 だが自由主義が困難に陥っている最大の理由は、自由な社会の自由は、それを逆手に取る悪意の人物に乗っ取られやすいことだ。米共和党の大統領候補指名がほぼ確実なドナルド・トランプがこの1年間に繰り返し証明しているように(他にもフランスの極右政治家マリーヌ・ルペン、同じくオランダのヘルト・ウィルダース、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領など挙げればきりがないが)、うわべだけの自由を売り物にする政治指導者や政治運動は、開かれた社会の裏をかいて支持者を増やすことができる。そして民主主義のなかには、そうした試みを確実に挫くしくみはない。

【参考記事】民主主義をかなぐり捨てたトルコ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米企業、堅調な経済見込む 少なくともイラン戦争勃発

ワールド

米提案をパキスタンが伝達とイラン高官、トルコも協議

ビジネス

米30年住宅ローン金利、昨年10月以来の高水準 

ワールド

ロシア主要石油輸出港2港、ドローン攻撃で炎上 積み
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 5
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 6
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 7
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 8
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 9
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 10
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中