最新記事

法からのぞく日本社会

ポケモンGOは大丈夫? 歩きスマホをやめたくなる5つの裁判例

2016年7月21日(木)15時42分
長嶺超輝(ライター)

 いずれも、人混みの中で歩行者が引いていたキャリーバッグに他の歩行者がつまずいて負傷した――キャリーバッグを引く際も周囲にご注意ください――という事例だが、歩きスマホで衝突負傷事故が起きた場合の参考になりうる。むしろ、歩きスマホには重大な過失があるとして、賠償額が上乗せされてもおかしくない。

 ちなみに、次のような事例もある。

●裁判例その3
 路上で目当ての店を探していた女性が、人通りの多い交差点で立ち止まって振り返った瞬間に、91歳のお婆さんと接触して転倒させてしまい、お婆さんは大腿骨を折るなどの重傷を負った。

→ 約780万円の賠償命令〔東京地方裁判所 2006年6月15日判決〕
(※道路を歩く者は、自分の身体的能力に合わせ、進路や速度を考えて、他の歩行者と衝突しないように注意する義務がある。ただし、お婆さんにも注意義務への違反があったとして、30%の減額)

→ 賠償の必要なし〔地裁の判決を破棄:東京高等裁判所 2006年10月18日判決〕
(※歩いて店を探し、振り返ったときに他人と衝突しケガを負わせたからといって、それだけで責任を認めることは困難である)

 一審では、高額の賠償を命じられたものの、二審で逆転したという裁判例である。担当した裁判官ごとの、ほんのわずかな認定の差によって、結果が大きく変わった。これがもし、歩きスマホの状況(地図アプリを使いながら店の場所を探すなど)だったなら、女性側の敗訴で確定した可能性もあるだろう。

「チャリ漕ぎスマホ」事故は、高額賠償コースへ

 自転車の運転中に、携帯電話やスマホを操作することは、歩きスマホよりも遥かに危険であるし、そもそも自転車の片手運転は、法律で定められた安全運転義務などに違反する(道路交通法70条、71条6号ほか)。万が一にも衝突事故を起こしてしまったならば、裁判で大変な結果が待っている。

 次の2件は、いずれも暗がりでライトすら付けていなかった事例である。はなから交通ルールを守る気がなかった人々に違いない。

●裁判例その4
 高校生が携帯電話を操作しながら、しかも夜間に無灯火で自転車を漕いでいたところ、歩道を歩いていた50代女性にぶつかった。事故後の女性は歩行困難の後遺症を負い、専門職(看護師)の仕事も辞めるしかなくなった。

→ 約5000万円の賠償命令〔横浜地方裁判所 2005年11月25日判決〕

●裁判例その5
 自転車に乗りながら携帯電話を操作し、夜間に無灯火で下り坂を走行していたところ、歩行者と衝突、転倒させてケガを負わせた。

→ 約570万円の賠償命令〔横浜地方裁判所2010年4月14日判決〕

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中