最新記事

東アジア

「ヒマワリ」の影が覆う台湾新総統の厳しい船出

2016年5月31日(火)16時00分
アナ・ベス・カイム(ジャーナリスト)

Damir Sagolj-REUTERS

<蔡英文総統誕生の原動力となった政治意識の高い若者たちは、台湾独立と経済的繁栄の両立を望み、蔡と共に行動する覚悟。中国の圧力で動けなければ、若者はまた彼らだけで立ち上がる> 写真は蔡の支持者

This article first appeared in Foreign Policy Magazine.

 台湾で先週、民進党を率いる蔡英文(ツァイ・インウェン)が総統に就任した。台湾にとって3度目の政権交代、そして初の女性総統の誕生だ。

 その大きな力となったのは若年層有権者だ。経済低迷や格差拡大、中国との関係強化にいら立つ若者の支持で蔡は勝利をつかんだが、彼らの声に迅速に応えなければ、たちまち背を向けられることになりかねない。

 失望は既に始まっている。民進党は先月、中国との協定に関して、立法院(国会)の監督を義務付ける法案の草案を発表。14年に起きた学生運動「太陽花(ヒマワリ)革命」が掲げた、中台サービス貿易協定の監督制度の法制化要求を受けた形だ。法案の目的は、中国とのあらゆる協定を厳正に審査し、締結の可否判断への市民の参加を促すことにある。

【関連記事】蔡英文新総統はどう出るか?――米中の圧力と台湾の民意

 だが民進党の草案は、学生などから激しい批判を浴びた。協定の評価プロセスに市民団体がどう関与するのか明確でない、最終的承認が市民参加の下で透明性を確保して行われる保証がない、との理由だ。

 この一件は、蔡政権の今後を示す出来事と言えそうだ。ヒマワリ革命を通じて政治意識に目覚めた若者は、新政権に行動を迫ることを責務だと感じている。変革を担うのは蔡でも民進党でもなく自分たちだ、と。

 台湾では「普通の国」に近づきたいとの切望が広がり、独立志向が強い民進党への支持が高まっている。現在、中南米やアフリカなどの22カ国が台湾と外交関係を結んでいるものの、アメリカをはじめとする主要国は国家として承認していない。中国の愛国的ネチズンは台湾総統を「地方長官」呼ばわりしているが、台湾の若者にしてみれば実にばかげた話だ。

再度の「革命」も辞さず

 台湾を強引に従わせようとする中国政府のやり方は、大きく裏目に出ている。いい例が、今年1月の台湾総統選の直前、韓国で活躍する台湾出身アイドル、周子瑜(チョウ・ツーユィ)がテレビ番組で台湾の旗を振ったことを謝罪した事件だ。謝罪は中国の圧力の結果とみた若年層の反発が、蔡の勝利の一因と言われた。

【参考記事】「人民元」に謝罪させられた台湾アイドル――16歳の少女・周子瑜

 謝罪動画で周が見せた力ない表情は、国際社会における台湾の立場の象徴であり、中国への経済的依存の危険性を浮き彫りにしていた。蔡は支持者から、独立路線の強化と併せて、雇用増や経済的繁栄の実現を期待されている。だが、この2つは両立可能なのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中