最新記事

金利

米早期利上げ観測が浮上、米企業ドル高悪夢が再燃

2016年5月23日(月)10時00分

 5月20日、米国経済が力強さを増し、連邦準備理事会(FRB)の早期利上げが意識され始めた。写真はベトナムの首都ハノイの銀行で5月に撮影(2016年 ロイター/Kham)

米国経済が力強さを増し、連邦準備理事会(FRB)の早期利上げが意識され始めた。このため企業は、2年にわたるドルの上昇がもたらしてきた逆風からの解放感をほんの束の間味わっただけで、再びドル高の悪夢に悩まされるかもしれない。

足元の主要6通貨に対するドル指数は、5月2日に付けた直近安値から2.9%上昇しており、米企業業績に影響を及ぼしかねない事態と言える。

ドルの値上がりは、今週に入り、複数のFRB高官が労働市場や物価動向を踏まえれば6月の利上げが妥当になるとの認識を表明したためだ。19日にはニューヨーク連銀のダドリー総裁が、6月か7月に利上げが必要な可能性があると発言した。また18日に公表された4月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨でも、第2・四半期の米経済が上向けば、6月に利上げする必要あるとの意見が大勢だったことが判明した。

一方で第1・四半期の米企業決算に目を向ければ、医薬品・日用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)など業績がアナリスト予想を上回った数少ない企業が理由に挙げたのはこの期間のドルが軟調だったことだ。

JPモルガンの米国株ストラテジスト、Dubravko Lakos-Bujas氏は「ドル安の支えがなければ、事態は惨憺たることになり始める。過去数カ月間、株式市場が喜び浮かれたのはFRBのハト派姿勢が原因だった。しかしFRBの利上げ開始はドル高を意味し、原油価格と新興国市場に再び圧力がかかる」と語り、ドル高は米企業の利益を年間で約1.0%押し下げる公算が大きいとの見方を示した。

調査会社ファイアーアップスによると、昨年第4・四半期には北米企業の4割がドル高が事業の重しになったと答えている。1ドルの上昇で平均2億1700万ドル、1株当たりで0.07ドルの利益を減らした。

米国株に割高感が広がっている中でドルが再び上昇してきたため、一部投資家はエネルギーや工業、ハイテクといった海外売上高比率の高い分野の保有高を圧縮しつつある。

ニーダム・ファンズのポートフォリオマネジャー、クリス・レッツラー氏は「ドル高はまず初めに、海外事業のウエートが大きい工業株や大型株により大きな下げ圧力を加える。同時にFRBが株式投資家が何よりも嫌いな不透明感を拡大させている」と指摘した。

同氏は米国株の売り持ちを推奨している。

S&PキャピタルIQによると、S&P総合500種企業全体の海外売上高比率は47.8%だ。最も比率が高いのは半導体大手マイクロン・テクノロジーの84.4%で、同業エヌビディアの83.1%、サンディスクの82.8%などが続く。ハイテクセクターを除くと、セキュリティー関連のアレジオンの81.4%が一番高い。

シエラ・インベストメント・マネジメントのテリー・スパス最高投資責任者は、ドル高が進む可能性があることから、新規の顧客資金は為替変動の影響を受けない地方債などの資産に投入していると説明した。

同氏は米国株を現時点でまったく保有しておらず、「FRBの動きに関係なく、米国株は最も割高だ。これがいやがうえにも値下がりリスクを生み出している」と警告した。

(David Randall記者)



[ニューヨーク 19日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省

ワールド

再送トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措

ビジネス

FRB金利据え置き継続の公算、PCEが消費の慎重姿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中