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中朝関係

金正恩氏が党委員長に――中国、ほとんど無視

2016年5月10日(火)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ネットでは?

 一方、中国大陸のネットでは新華網(中国政府の通信社である新華社の電子版)が、9日の18:26:17に、これ以上短くはできないというほど短い速報を発信した。そこに書いてあるのは「朝鮮は9日、金正恩が朝鮮労働党委員長に当選したことを宣布した」だけである。中国語で21文字の短文だ。

 CCTVはいつも、重要ニュースがあると、すぐに速報で携帯にニュースを発信する機能を持っている。いつもニュースが入り過ぎてうるさいほどだが、そこにも「金正恩が党委員長になった」という情報は入ってこなかった。

 ただネットでは新華網が速報を出しただけでなく、その21文字の速報に対してコメント記入が許されたようだ。たとえば「捜狐(Sohu)」のページには多くのネットユーザーのコメントが書き込まれていた。悪口ばかりだ。

 たとえば、

●どんなに変わったって、肩書が一つ増えれば、笑い者にされることが、また一つ増えるだけだよ。

●当選だって? 自分で自分に肩書を与えただけだろ? 宇宙長にだってなろうと思えばなれるわけだし。自分が決めれば、それでいいんだから。

●人類の主、物質の祖、っていう呼称はどうだい?

●いやいや、これは「(国連安保理)制裁」の効果じゃないの?

 などなど......。あまりにひどいのもあるので、さすがに翻訳は控えよう。

 中国政府、特に習近平氏の悪口など書こうものなら、削除ではすまず、拘束されるくらいの中国なのだが、金正恩氏のコメントを好き放題書かせているのは、中国政府としては言えないことをネットユーザーが代わって書いてくれるのを待っているからだろうか。いや、政府のためにコメントを書く「五毛党」のしわざかもしれない。

 いずれにしても、中国がいかに北朝鮮の動きを不快に思っているかの表れだと解釈していいだろう。

「日本、中国、韓国、北朝鮮」の四カ国の中で、ただの一度も首脳会談を行っていないのは北朝鮮だけだが、その中に「中朝」があることを肝に銘じておこう。

 習近平氏は日本の首相とは会談しても、金正恩氏とだけは、ただの一度も会ってないのである。

追記:なお、その後(10日朝9時)の情報で、習近平総書記が中国の慣例にならい金正恩党委員長に「党」として祝電を送っていることが分かった。それは昨日(5月9日)のコラムに書いたように朝鮮労働党大会開催に当たり、慣例通り祝電を送ったのと同じだ。それはこれまでの慣例に従っているだけで、現在における「扱い」がこれまでと全く異なることをご紹介したのである。中朝同盟がある中、もしこの祝電さえ送らなかったとしたら、それは国交断絶に等しいくらいの状況となる。中朝関係のややこしさの表れの一つだ。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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