最新記事

金融

証券業界、アナリストの必須条件は「早耳情報」より「分析」へ

企業への取材よりも独自の分析による予想軸足を移す

2016年4月23日(土)12時46分

 4月22日、証券アナリスト業務に変革の波が押し寄せている。写真は株価情報を眺める男性、都内で昨年8月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

証券アナリスト業務に変革の波が押し寄せている。決算数字などの重要情報をいち早く入手し、投資家に提供する仕事よりも、本来の企業情報の分析に軸足を移すべきとの流れが強まっているためだ。

ただ、「早耳情報」が投資家から証券会社への発注に結び付く原動力になっているのも事実で、真の変革が根付くかどうかは未知数だ。  

<自己改革に動き出した証券会社>

野村証券は、昨年12月から「決算プレビュー」という企業取材に基づいた決算予想は行わないことにした。継続しているのは、アナリストの独自分析による決算見通しの提供だ。

大和証券は、アナリストが決算期末15日前から決算発表前日までに企業を取材した場合、未公表の決算情報を一切取得していない旨などを記録・保存するよう義務付けた。同証券はこれまでも決算情報の取得を目的とした取材を禁止してきたが、管理をさらに強化したかたちだ。

業務改革のきっかけになっているのは、証券取引等監視委員会による外資系証券に対する調査だ。監視委は昨年12月以降、ドイツ証券とクレディ・スイス証券に金融商品取引法に基づき行政処分を出すよう金融庁に勧告。両証券とも、アナリストが企業を取材した際に得た未公表の重要情報を一部顧客の投資家に漏らし、それが株の売買につながったとして問題視された。

<需要の高い決算数字などの「早耳情報」>

証券アナリストは、自らがカバーする企業の財務情報を分析し、投資家に提供するのが仕事だが、その際、企業を訪問し、CFO(最高財務責任者)やIR担当者らからのヒアリングも実施する。取材の過程で、近く発表される決算数字を「当てにいく」ことも多く、「こうした情報が実は一番投資家に喜ばれる」(外資系証券のアナリスト)のが実情だ。

アナリストの情報をもとに顧客投資家が活発に株の売買を行えば、仲介した証券会社には手数料が入る。関心は自ずと企業の重要な内部情報に向かい、短期売買を繰り返すヘッジファンドに食い込もうと躍起になる──という構図がある。

しかし、監視委の幹部は「アナリストの役割は大きく変わるべき」と指摘する。「マスコミと一緒になって『早耳情報』を追いかけるのではなく、膨大な公表資料を分析する業務に徹するべきだ」と主張する。

背景にあるのは、アナリストのカバーする企業が一部に偏っているとの問題意識だ。日本の上場企業は3000以上あるが、アナリストがカバーしている企業はごく一部。公表資料を丁寧に分析し、中長期的に成長しそうな企業を発掘すれば、さらに資本市場は厚みを増すと、監視委幹部はみている。

<独自分析で生き残れるアナリストへ>

金融庁は、さらに体制整備にも乗り出す。金融審議会(首相の諮問機関)の部会は13日、上場企業が特定の第三者に重要な内部情報を伝えることを禁ずる「フェア・ディスクロージャー・ルール」の導入に向けて「具体的に検討すべき」とする報告書をまとめた。金融庁のある幹部は、米国流のフェア・ディスクロージャー・ルールが模範になると話す。

米証券取引委員会(SEC)は2000年に規制を導入し、未公表の重要事実をアナリストに優先的に開示することを禁止した。「早耳情報」の取得競争から脱し、企業とアナリストのなれ合いを断つことが狙いの1つだ。

ルールが導入されれば、アナリストは公表資料を独自に分析し、その内容で競い合う時代に突入する。しかし、その能力を今のアナリスト達が持っているのかどうか。あるアナリストは、独自色の発揮は難しいと話し「自分の『仕事』はなくなってしまうのではないか」と頭を抱えている。

(和田崇彦 編集:田巻一彦)

[東京 22日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ホンダ、本社機能を東京・八重洲の再開発地区に移転へ

ワールド

韓国、AI主導の成長促進へ大幅歳出拡大へ 25年比

ワールド

大統領令発出までに、少なくともあと1回は訪米必要=

ビジネス

米ダラー・ゼネラルが売上高見通し上方修正、消費者の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    米ロ首脳会談の後、プーチンが「尻尾を振る相手」...…
  • 10
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 8
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 9
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中