最新記事

新興国

テロ続発が脅かすトルコ経済

年8%の高成長を続けた00年代半ばから一転、治安と政治的安定への懸念が投資家を遠ざけている

2016年4月18日(月)16時14分
マイケル・カプラン

渦巻く不安 3月13日のアンカラでの爆弾テロは半年間で3度目 Kerem Uzel-Bloomberg/GETTY IMAGES

 トルコで続く爆弾テロに、投資家たちはこの国の長期見通しを不安視している。

 首都アンカラで3月13日に起こった爆弾テロ(この半年間で3度目)では、少なくとも37人が死亡。19日には最大都市イスタンブールでも爆発があり、4人が死亡した。トルコ情勢はますます不安定さを増し、10年ほど前の目覚ましい経済成長を復活させようとの努力に暗い影を落としている。

「(投資家が)最も重視することの1つは政治的安定だ」と、トルコを含む新興国市場に詳しい米メリーランド大学カレッジパーク校のシェブネム・カレムリエーズガン教授(経済学)は指摘する。「彼らは家族と共にノウハウを携えてトルコを訪れ、数年間ここで暮らすことになる。首都で爆弾テロ事件が続発している現状では、誰もが二の足を踏むはずだ」

【参考記事】アメリカがトルコのクルド人空爆を容認

 暴力事件の連鎖に加え、トルコは景気減速、財政支出の増加、失業率の悪化や輸出部門の競争力低下にも苦しんでいる。クルド人武装勢力は過去2年続いた政府との停戦合意を破棄。アンカラやイスタンブールの中心部に攻撃を仕掛けている。

イスラム民主主義の優等生が

 観光産業も不振に陥った。昨年のロシア戦闘機撃墜を受けてロシアがトルコに制裁を科したため、繊維製品や農産物の輸出も打撃を受けている。かつて「イスラム民主主義」の優等生ともてはやされた現政権も、最近は権威主義的姿勢を強め、ひどく腐敗したと非難されている。

【参考記事】「民主化」トルコを売った男

「こうした治安や政治的安定がらみの要因の影響は大きい」と、カレムリエーズガンは言う。「投資家なら、トルコを最も信用力の低い投資先の1つと判断するだろう」

 トルコ経済は09~10年、世界金融危機の影響で大きく落ち込んだ。そのときの傷はまだ完全には癒えていない。

 00年代半ばのトルコは好景気に沸いていた。穏健派イスラム主義を掲げる公正発展党(AKP)の新政権が導入した経済改革で、年平均8%の高成長を達成。景気の低迷にあえぐ周辺諸国をよそに、中東の経済大国への道を邁進していた。レジェップ・タイップ・エルドアン首相(現大統領)は、トルコを援助対象国から経済強国に変えた指導者として称賛を浴びた。

 だが、ビルケント大学(アンカラ)のエリンチ・イェルダン経済学部長によれば、エルドアンの経済政策は最初から致命的な問題を抱えていた。トルコは長年EUへの加盟を求めてきたが、エルドアン政権下でトルコ政財界の指導者たちは中東重視へとシフトし、重点的に資金を回すようになっていった。これは危険な動きだったと、イェルダンは指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中