最新記事

独裁者

「民主化」トルコを売った男

政府を批判するジャーナリストや国民を弾圧。エルドアン首相の強権体質は今に始まったことじゃない

2013年6月12日(水)12時44分
オーエン・マシューズ(イスタンブール)

強権国家 地下組織「エルゲネコン」の裁判が行われる法廷の外に立つ憲兵たち(08年10月) Fatih Saribas-Reuters

 トルコのエルドアン首相は改革派で、ロシアのプーチン首相は独裁者──そんな思い込みは捨てたほうがいい。

 よく見ると、この2つの国では似たようなことが起きている。政府を批判したジャーナリストは投獄されるし、権力者に逆らう政治家は司法当局ににらまれ、裁判なしで何カ月も、時には何年も刑務所にぶち込まれる。政府に批判的な実業家には法外な税金が課される。

 それに、トルコは少なくとも2つの点でロシアより悪い評価を受けている。国境なき記者団が発表した報道の自由度ランキングでは、ロシアの142位より低い148位。欧州人権裁判所によれば、トルコでは昨年だけで174件の人権侵害があった(ロシアは133件)。

 一体何が起きているのか。レジェップ・タイップ・エルドアンは9年前、軍部の政治介入をやめさせてトルコを「先進的な民主国家」にするという公約を掲げ、圧倒的支持を得て首相になった。就任当初は公約どおり改革に取り組み、ヨーロッパもそれを歓迎した。05年にはEU(欧州連合)への加盟交渉も始まった。

 だが07年の爆弾テロ未遂事件をきっかけに、改革の歯車が狂い始めた。

 捜査当局はこの事件を、超愛国的な将校たちから成る地下組織「エルゲネコン」がクーデターを計画したものと断定し、大々的な摘発に乗り出している。これまでにジャーナリスト100人以上に加え、約250人の軍関係者が投獄された。非合法化されているクルド労働者党(PKK)の活動家や支援者として逮捕された人は、既に3500人に上る。

 こうした逮捕がエルドアンの直接の指示によるものか、それとも彼が、たまたま自分の政治目的にかなう捜査を行っていた「熱心過ぎる」検察官に同調しただけなのかは定かでない。

 確かなのは、エルドアンがエルゲネコンの訴追を支持していること、そして報道の弾圧に対する国際社会からの批判を単なる「中傷」だとはねつけていることだ。

マスコミが抵抗しない訳

 2月初旬、検察は政府にまで牙をむいた。PKK側と「国家反逆罪に相当する」接触を持った疑いで、エルドアンの腹心で国家諜報機関(MIT)トップのハーカン・フィダンに対する事情聴取を行ったのだ。

 確かにMITはPKKとの協議を行っていた。だが、それはクルド系住民と政府の和解を目指すエルドアンの指示によるものだった。「検察内部には和解を望まない者がいるようだ」と、トルコ情勢に詳しい政治アナリストのグレンビル・バイフォードは言う。「彼らにとっては、PKKへのいかなる譲歩も国家反逆罪に等しい」

 トルコでは10年に司法制度の改革が行われ、ヨーロッパもこれを歓迎した。中立的で公正な司法制度ができるはずだったが、現実には自身の政治的な思惑で強大な権力を行使する検察官がいる。その結果、銃ではなく逮捕令状を武器とする内戦が始まってしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 4
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中