最新記事

IPO

シリコンバレーのスタートアップが大企業志向に!

景気後退のせいでIPOやる気なし、将来的にも大企業に買収されたいが半数を超えるVC泣かせの体たらく

2016年4月15日(金)17時12分
スン・リー

公開株も振るわず ツイッターの株価はIPO時から半値に(サンフランシスコの本社) Jason Doiy-iStock.

 ちょっとした異常事態だ。2016年1月~3月期にはアメリカでIPO(新規株式公開)を行ったハイテク企業が1社もなかった。これは、サブプライム危機に端を発した2007~2009年のグレート・リセッション(大不況)以来、初めてのことだ。

 ここ数年のカリフォルニアの湖や貯水池の水位のごとく、ハイテク部門のIPOはすっかり干上がってしまった。わずか2年前には、62社のテック企業が株式を公開し、2015年初頭にも期待は大きく膨らんだが、その後は中国の株価下落が象徴するグローバル経済の後退で、ハイテク企業のIPOも失速してしまった。

【参考記事】シリコンバレーが起業家を殺す

 シリコンバレーでは90年代以来、IPOがなかった四半期は3度だけだ。2002年の第3四半期、2003年の第1四半期、そして2009年の第1四半期だ。いずれも景気後退の影響を受けた。2000年に始まったドットコム・バブルの崩壊と2008年のリーマンショックの後のグレート・リセッション(大不況)だ。

 直近の1~3月期には、公開しているハイテク株も振るわなかった。ハンドメイド製品のネット通販会社エッツィーやツイッターの株価は、公開当初の価格から50%以上下落している。

 ハイテク企業の株価低迷で、IPO予備軍の企業は二の足を踏んでいる。ネット配車サービスのウーバーは、シリコンバレーの未公開企業のなかで断トツの企業価値(625億ドル)を誇るにもかかわらず、株式公開を避けている。

 米国ベンチャーキャピタル協会(NVCA)のボビー・フランクリンCEOによると、「少数のバイオ企業の成功例を除けば、VCの投資先がIPOできる機会は完全にふさがれている」と、NVCAのボビー・フランクリン最高経営責任者(CEO)は語る。

IPOしたいのはたった17%

 VCのシリコンバレーバンクの調査によると、シリコンバレーのスタートアップ企業の不安と悲観はここ7年で最大となっているという。調査対象となったシリコンバレーのスタートアップ企業のうち、「将来的にIPOを目指している」と回答したのはわずか17%。それに対して、「より規模の大きいハイテク企業に買収されることを望んでいる」と回答した割合は56パーセントだった。

 IPO動向を追跡する専門家の中には、ハイテク部門でIPOの動きがまったく見られないことに驚きを隠せない者もいる。フロリダ大学のジェイ・リッター教授はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「このような不振がなぜ続いているのか、少し当惑している」と述べている。

 現時点での見通しは暗いものの、NVCAのフランクリンは、自らのレポートを読む者や他のベンチャーキャピタリストに対し、冷静さを保って長期的な視点を保つよう助言している。「こうした状況は一部にパニックを引き起こすかもしれない。しかし、VCのビジネスは長期的なものだ。ベテランのベンチャー投資家たちは、これまでもこうした低迷を乗り越えてきた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中