最新記事

企業

不正の代償は重く、三菱自は顧客補償だけで1000億円以上か?

燃費を数パーセント良く見せようとした不正は、会社への評価を100%失わせた──

2016年4月30日(土)09時19分

 4月29日、燃費不正の代償は三菱自動車に重くのしかかりそうだ。写真は記者会見する相川社長、27日撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

燃費不正の代償は三菱自動車<7211.T>に重くのしかかりそうだ。不正が確認された軽自動車4車種だけで、顧客などへの補償は1000億円超になるとの試算もある。追加調査で不正対象車が増えれば、その額はさらに膨らむ。ブランド毀損による販売減少が続く可能性もあり、業績悪化は避けられそうにない。

<特損1500億円の試算も>

燃費を5―10%良く見せるというデータ不正が発覚したのは、三菱自が2013年6月から生産した「eKワゴン」や日産自動車<7201.T>向けの「デイズ」など軽4車種約62万5000台で、日産向けは46万8000台と全体の7割超に上る。   

三菱自は現在、不正対象車の購入者に対する補償内容を具体的に詰めている最中だが、まず強いられそうなのがエコカー減税の返納分だ。実際の燃費がエコカー減税の対象外であることが判明した場合、購入者は国や地方自治体に減税分を返還する必要があり、三菱自は返還分を負担する。実際の燃費が悪く余計にかかったガソリン代、イメージダウンによる中古車価格の下落分などの補償も同社は検討している。  

野村証券では、エコカー減税返納分、ガソリン代、顧客へのお詫び料の3つの費用総額を425億―1040億円と試算。それ以外の費用も含め、三菱自の17年3月期に特別損失1500億円が発生すると予想している。   

クレディ・スイス証券では、実際の燃費との差が約10%と仮定し、エコカー減税返納分、ガソリン代、中古車価格の下落分を顧客への補償額として試算。また販売停止が3カ月続く場合、工場の操業低下で150億円悪化すると推定し、燃費不正によるマイナスの影響を約650億―1150億円と見積もる。  

三菱自の調査では、1991年以降に販売したほぼ全車種で国内法令と異なる方法で燃費試験用データを計測していたことも判明した。軽4車種だけでなく、現在販売中の他の9車種についても追加調査中で、その結果、不正対象車が200万台以上に拡大するとの試算もあり、補償額はさらに膨らむ恐れがある。  

<日産へ販売機会損失も補償>  

こうした顧客への補償に加え、販売店や部品メーカーへの支援費用も必要になる。軽4車種は不正公表後から生産販売を停止しており、停止期間が長引けば経営は厳しくなるからだ。また、日産に対する補償や法令違反の問題もある。  

三菱自が日産に供給するデイズは15年度の軽販売台数で3位に入る人気シリーズ。日産に対する補償額は販売機会損失という点も考慮され、販売停止期間にもよるが、数百億円規模とアナリストらはみている。三菱自にとっては今後、日産との提携解消や次期共同開発車の中止というリスクもある。

このほか、正規に測定した実際の燃費との差が小さいとしても、三菱自の法令違反は疑いの余地がないため、国土交通省が何らかの行政処分を課す可能性がある。

<販売再開には3カ月以上の時間も>

軽4車種の販売再開には国交省による再認証が必要だ。同省は5月2日から軽4車種の燃費を再試験し、6月中に新たな燃費性能値を公表する。他の9車種も再試験を行う予定。

石井啓一国交相は28日の会見で、三菱自の不正に厳しい姿勢を示し、生産や販売に必要な型式指定を維持するかについて「全容が解明された上で判断したい」と述べた。同社は第三者による調査報告を3カ月後に公表予定で、早ければ7月にも販売が再開できそうだが、同省の対応次第でさらに先送りになる恐れもある。

不正対象車の買い取りを求める声もある。石井国交相も22日の会見で、同社に買い取りを含めた顧客への「誠実な対応」を求めた。ディーゼル車の排ガス不正問題を起こした独フォルクスワーゲンが米当局と最大約50万台の買い取りに応じることで米当局と合意したと21日発表しており、三菱自にも同様の対応が求められれば多額の費用が生じる。

<支払い能力には余地、補償総額は不透明>   

三菱自は現預金(3月末時点で約4600億円)などから補償金を支払う予定。27日会見した田畑豊常務は「一般的に必要な運転資金は売上高の1カ月分(前期では単純計算で約1900億円)」と説明、差し引き約2700億円が補償の原資になるとみられる。  

3月末の自己資本比率は48%と高く、同常務は「この2―3年で財務の健全性は大幅に強化されている」と指摘。有利子負債も300億円以下で「財務体質は強い」と述べた。金融機関にも、万が一の場合は「必要な資金調達をお願いすると伝えている」といい、支払い能力の余地を示した。だが、相川哲郎社長が「どのくらいかかるか残念ながら全体感がつかめていない」と話すなど補償総額の規模はまだ不透明だ。

前期営業利益の大半を稼いだ海外販売に影響が及べば打撃だが、今のところその情報は「来ていない」(相川社長)。同社が13―17年型の米国販売車に不正はないと27日発表したこともあり、現時点で米国での影響を懸念する声は少ない。ただ、国内での受注は不正公表後に半減しており、今後、不正の代償はさまざまな形で同社の経営を圧迫するとみられる。

(白木真紀、田実直美 編集:内田慎一)



[東京 29日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中