最新記事

東アジア

韓国が民主主義から遠ざかる

朴槿恵が大統領に就任して3年が過ぎた今、これまでの懸念がさらに大きな懸念として浮上してきた

2016年3月28日(月)16時00分
ジェフリー・ファティグ

見据える先は? 朴は韓国を過去に押し戻したいのか Chung Sung-Jun-REUTERS

 北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を繰り返し、人権をまったく考慮しない状況を続けるなか、国際社会が朝鮮半島に関心を向けるのは当然かもしれない。

 しかし北朝鮮の暴挙だけに目を奪われると、38度線の南側で起きている気掛かりな問題が見えにくくなる。就任から丸3年が過ぎた韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が、80年代にようやく民主化を実現させた母国を過去の状況に後退させているという懸念が強まっている。

【参考記事】朴政権の「歴史歪曲」で大モメ

 朴が大統領に就任したのは13年。中道左派政党の候補との一騎討ちに僅差で勝利した。

 この大統領選では、情報機関の国家情報院(NIS)が朴の対立候補を「親北」と見なす方向に世論を誘導し、国の安全保障の危機をあおって朴を援護した。以後、大統領になってからの朴の政策には、民主主義を軽視していると受け取れるものが少なくない。

 13年11月、朴政権は憲法裁判所に対し、左派政党の統合進歩党は親北の違憲政党だと訴えた。裁判所は翌年末、同党に違憲判決を下し、解散を命じた。韓国で政党が非合法化されたのは、建国以来初めてだった。

 判決の根拠とされたのは、48年施行の国家保安法だ。この法律は国際社会から批判され続けているが、朴政権は改正に着手するそぶりも見せていない。むしろ政権はこの法律を基にして、個人、特にジャーナリストを相次いで訴えている。

 反政府的な動きに朴政権が厳しい姿勢を示した例は、ほかにもある。14年の旅客船セウォル号の沈没事故後、それまでもインターネットに厳しい規制を行っていた韓国政府はネットの監視態勢をさらに強化し、中傷を理由として多くの訴訟を起こした。一方で、歴史教科書への政府の介入に抗議したり、韓国を代表する大企業の従業員の権利を訴えるデモを規制した。

【参考記事】韓国教科書論争は終わらず

 国連のマイナ・キアイ特別報告者は先頃、韓国では街頭デモが民主化に大きな役割を果たしたのに、現在の韓国では「集会の自由が後退しつつある」と指摘した。

曖昧過ぎるテロの定義

 だが、朴政権は耳を貸さない。最近も、長らく棚上げになっていた反テロ法案を可決した。NISの権限を大幅に拡大させ、盗聴を行ったり、「テロ容疑者」の個人情報を集めることができるようにしたほか、首相府の管轄下に「テロ対策センター」を設置した。

 この反テロ法案は、韓国史上最長の9日間にわたる議事進行妨害による抵抗もむなしく、与党セヌリ党の賛成多数で先頃可決された。

 反テロ法の目的は表面上、北朝鮮の諜報・テロ活動の阻止だが、国が個人のプライバシーを侵害する恐れがあると批判されていた。法案にある「テロ」の定義も曖昧だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中