最新記事

米社会

欠陥品の銃で大けがしたら

2016年2月29日(月)19時35分
キャサリン・ダン

 内臓を撃ち抜かれたプライスは、3年間で12回の手術を受けた。医療用メッシュで臓器を支えているところは今もうずく。なのに、トーラスが欠陥品とされる銃を各家庭から引き揚げる措置を取ったのはつい最近だ。

訴訟と「銃反対」は別物

 トーラスは昨年7月、集団訴訟で和解し、100万丁近い銃をリコールすることに同意した。訴訟を起こしたのはアイオワ州の警官クリス・カーター。トーラスの拳銃のいくつかのモデルは設計に欠陥があり、落としたときに発砲することがあると申し立てていた。

 そこでは9つのモデルが取り上げられており、プライスの事故を起こしたPT140も含まれている。被害者側の弁護士によれば、05年以降で少なくとも13人が似たような状況で負傷し、11歳の少年が死亡している。


【参考記事】銃乱射犯に負け犬の若い男が多い理由

 和解は間もなく裁判所に承認される予定だ。そうなれば所有者は拳銃をトーラスに返し、代金の払い戻しを受けるか、引き金の安全が確認された銃と交換することができる。ただしトーラスは今も、銃が不良品だったとは認めていない。

 和解が成立したもう1つの集団訴訟では、レミントン・アームズ社が700万丁以上を修理することを発表している。

 カーターの訴訟では、原告側弁護士が約500時間のテストを専門家に依頼。高速度カメラを使って、トーラスの銃を落としたときの結果を捉えた。その映像で「衝撃を受けると、誰かが引いたように引き金が後ろへ動く」ことが分かったと、カーターの弁護士は言う。

 難しいのは、欠陥品の銃に対する訴訟と「銃反対」は別物だと、銃保有者に納得させることだ。「訴訟は個人の武器所持・携帯の権利とは何の関係もない」と、プライスやカーターの代理人を務める弁護士のトッド・ウィールズは言う。「これは欠陥製品の訴訟だ。人を傷つけたり殺したりしたら、料理用ミキサーでも訴訟を起こす」


【参考記事】ノルウェー警察が10年間一人も射殺していない理由

 プライスは事故の後、手術で胃に開いた穴や、筋肉がないため膨らんだ腹部を示したチラシを銃の展示会で配っている。ネットには、事故当時のことやけがから回復する様子を伝える動画を投稿。思いがけず活動家になった、といえるだろう。「あの事故は起こるべきじゃなかったと思っている。ほかの人にあんな経験をしてほしくない」

 プライスは約20丁の銃を所有し、トーラス製ではないが銃の携行も続けている。トーラスへの怒りで、銃を持つ権利を支持する考えが揺らぐことはなかった。銃を持ち歩くと「力を手にし、被害者にならなくて済む」と感じられるという。

 口にはしないが、銃が地面に落ちただけで被害者になるのはおかしいとも思っているはずだ。

[2016年2月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中