最新記事

欧州銀行

ドイツ銀行に黄色信号?迫る不安定化の恐怖

過去最大の赤字決算で利払い停止の可能性も。金融システムを脅かす新たな懸念とは

2016年2月19日(金)17時00分
ジョーダン・ワイスマン(スレート誌ビジネス・経済担当)

影響は世界に 名門ドイツ銀行の先行きは暗い?(フランクフルトの本店) Kai Pffaffenbach-REUTERS

 財務健全性は高い──大手銀行がそう主張すれば、かえって疑わしい目で見られるもの。今のドイツ銀行がそうだ。

ドイツ銀行は最近、市場の猛攻撃にさらされている。年初からの株価の下落率は40%を超え、デフォルト(債務不履行)懸念の高まりで債務保証コストが急上昇。おかげでジョン・クライアンCEOは先週、同行の「基盤は相変わらず盤石だ」との声明を従業員向けに発表する羽目になった。

 各国市場に脆弱性がうかがえる今、ドイツ最大手の同行にわずかでも問題があれば、影響は世界に広がりかねない。

 問題とは何か。その一部分は、ヨーロッパのすべての銀行が直面する問題にほかならない。

【参考記事】2016年の世界経済のカギを握るのはやはり原油価格

 グローバル経済の成長鈍化と低金利のせいで、各行は融資で利益を出せなくなっている。原油安でエネルギー企業の債務返済が滞る一方で、規制強化によって投資銀行部門は儲けが薄いビジネスになった。欧州の銀行は「慢性的な収益性危機」にあると、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は指摘する。

 ドイツ銀行の場合、事態はとりわけ悪い。先月発表した15年決算は、過去最大の68億ユーロの赤字を計上。大きな理由は、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作事件などで罰金支払い義務を抱え、規定違反をめぐる訴訟費用もかさんでいることにある。

 ドイツ銀行に絡む法的問題は今後も浮上しそうで、巨額の制裁金を科されることにもなりかねないと投資家は懸念する。一部債券の利払いを停止する可能性も否定できなくなった。

【参考記事】AIG「強欲復活」は米景気回復のサイン?

 ここで少し、問題の背景を確認しよう。新たな自己資本規制「バーゼルⅢ」の適用に伴い、銀行は自己資本比率を高めようとしている。自己資本の中には「ティア1」と呼ばれるものがあり、これがドイツ銀行の問題と関係する。

「CoCo債」という爆弾

 ティア1はいわば、返済義務がないカネ。株式発行で調達した資金や利益余剰金がこれに相当する。だが、銀行が自己資本比率を膨らます目的で発行する「偶発転換社債(CoCo債)」もここに入る。

 ブルームバーグの記事によれば、CoCo債は「手榴弾付きのハイリターン投資」だ。株式と債券を合わせたような存在で、通常の債券と同様に利子を支払う。ただし、利払いを繰り越したり、自己資本が低下した場合は株式に転換して利子を払わないようにすることも可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ、経済は正しい軌道上にあり金融政策は十分機能

ワールド

イスラエルのミサイルがイラン拠点直撃と報道、テヘラ

ビジネス

中国シャオミ、初のEV販売台数が予想の3─5倍に=

ワールド

イスラエル北部の警報サイレンは誤作動、軍が発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中