最新記事

中国

習総書記「核心化」は軍事大改革のため――日本の報道に見るまちがい

2016年2月10日(水)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

軍事大改革  最高司令官になった習近平・中央軍事委員会主席(中共中央総書記) Wong Maye-E/Pool-REUTERS

 習近平総書記を「核心」と称することに関して日本の多くの報道がまちがった分析をしている。軍事改革は旧ソ連式からアメリカのような大統領権限を総書記が持つ形にし即戦力を重視。結果、一極集中化が不可欠なのだ。

「核心」を強調し始めたのは軍事大改革のため

 今年1月2日付の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で、中国が人民解放軍に関して大規模改革を行なっていることをご紹介した。

 この改革は中国共産党の軍隊が誕生した1927年8月1日以来はじめて行なわれる抜本的な大改革で、建国以来(1949年10月1日以来)という視点でも、もちろん初めてのことである。

 中国共産党の軍隊が誕生したとき、共産党は「中華民国」という国家の中に「中華ソビエット共和国」という国家を建設していた(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。したがってこのとき誕生させた軍隊は「中国工農紅軍」と呼ばれ、「ソ連紅軍」の指揮下にあったので、これまでの中国人民解放軍は構造においても命令指揮系統においても、すべて「ソ連式」なのである。

 1991年末にソ連が崩壊した後の90年代、IT化とグローバル化の波により、科学技術も飛躍的に発展しただけでなく、世界情勢も大きく違ってきた。

 そこで中国の軍隊も、「ソ連式」から脱皮して「アメリカ式」あるいは「ヨーロッパ式」に転換すべく、今般の軍事大改革に至ったのである。

 最大の変化は、中国人民解放軍にもともとあった「総参謀部、総政治部、総装備部、総后勤部」を撤廃し、中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)をトップとした軍事委員会の下に、直接「7つの部&庁(6つの部と1つの庁)、3つの委員会、5つの直属機構」を設置して、軍事委員会そのものに軍事指揮権を与えたことだ。結果、中央軍事委員会主席(=中共中央総書記・習近平)が最高司令官になった。

 同時に即戦力を高めるため、7つの軍区を撤廃して5つの戦区(東部・南部・西部・北部・中部戦区)を設置。

「いざというとき」には、習近平・中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)が直接指令を下せば戦区と軍種(陸海空軍+ロケット軍+戦略支援部隊)が動くという形にしたため、軍人すべてが「中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)」を「核心」的指導者として位置づけていないと軍は乱れる。特に軍事改革により、もとの軍区の司令官から外された者が既得権益にしがみついて反乱を起こさないとも限らない。なんと言っても彼らは軍を指揮していた者たちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GPIF、24年度運用収益1.7兆円 5年連続増も

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%の関税 5日

ワールド

ウクライナ首都に夜通しドローン攻撃、23人負傷 鉄

ワールド

「最終提案」巡るハマスの決断、24時間以内に トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中