最新記事

朝鮮半島

中国は北朝鮮を説得できるのか?――武大偉氏は何をしに?

2016年2月4日(木)17時00分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国にも耳を貸さず 今年1月、「水爆」実験の成功を称える金正恩 North Korea's Korean Central News Agency (KCNA)

 北朝鮮が地球観測衛星(事実上の長距離弾道ミサイル)発射を予告した2日、中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が訪朝。国連制裁決議が強硬すぎると難色を示す中国の落としどころに関して中国政府関係者を取材した。

4回目の核実験に対する国連制裁決議に対する中国の本音

 北朝鮮が水爆実験と称する、4回目の核実験を行なったことに対し、中国はことのほか強い怒りを覚えていた。このことは1月7日の本コラム「北朝鮮核実験と中国のジレンマ――中国は事前に予感していた」などに書いた通りだ。本来なら中国は国連の対北朝鮮制裁決議に同調するはずだったが、アメリカは中国が想定していた内容を遥かに超える要求を出してきた。

「金融制裁の強化」だけでなく、「北朝鮮船舶の入港を世界中で禁止すること」を始め、「北朝鮮への原油輸出禁止」「鉱物資源の輸入禁止」「北朝鮮国営の高麗航空の各国領空通過禁止」などが含まれる。

 中国が考えていた制裁は、あくまでも「核やミサイル開発を抑止させる」程度にとどめるべきというもので、それを越えて市民生活に大きなダメージを与える貿易や経済にまで影響を及ぼすものを想定してはいない。

 まずは、これに関して「中国の本音」を中国政府関係者に聞いてみた。

 すると、いつも通り「人道主義的立場から賛同できないのだ」という模範解答が戻ってきた。

「本音は違うのではないか」と筆者は詰め寄り、「本当は北朝鮮が崩壊するのを中国は恐れているのではないのですか? 北が崩壊するということは韓国が朝鮮半島を統一することになり、そうすれば中国の陸続きに韓国にいた米軍が駐在することになる。それは中国にとって非常に不快なことであり、安全保障上受け入れられないという事情があるのでは?」とストレートに聞いた。

 相手はしばらく黙ったが、不快そうに「当然だろう」と答える。

「中国は絶対に朝鮮半島全体に米軍が駐留していることなど、容認することはしない」と本音をもらす。しかし、と相手は続けた。

「しかしですね、よく考えてみて下さい。米軍は何のために韓国に駐留していると思っているんですか?」

 今度は先方が筆者に詰め寄ってきた。

「それは当然、かつての朝鮮戦争を戦ったときに韓国を支援した連合軍の代表として、北から南(韓国)を守るためでしょう」

 そう回答しながら、ハッとした。

 すると、筆者の次の発言を待たずに先方は決定的な言葉を発したのだ。

「ということは、北が存在しなくなったのなら、『北の脅威から南(韓国)を守る』という大義名分はなくなりますよね。つまり朝鮮半島に米軍が駐留すべき正当な理由がなくなる。すなわち、アメリカは北朝鮮が崩壊すると、本当は困るんですよ!」

 これはアメリカの政治ゲームさ、と投げ捨てるように語気を荒げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中