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河南省、巨大な毛沢東像建造と撤去――中国人民から見た毛沢東と政府の思惑

2016年1月12日(火)13時53分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」ではないが、その毛沢東を中国人民が懐かしみ始めたのは、90年代末、あるいは2000年に入ったころのことだった。

 毛沢東が1976年に他界すると、1978年12月から改革開放が始まった。

 それまで金儲けをする人は反革命的大罪人として投獄されていたのに、鄧小平は「先に富める者から富め」という先富論を唱えて金儲けを奨励した。自由競争が許される中で一党支配体制だけは崩さなかったので、当然のことながら貧富の格差は拡大し、「苦しむ貧しい人民の味方」であったはずの中国共産党の幹部が巨万の富を謳歌する極少数の利権集団と化し、「人民中国」は消えた。

 そのため、富から取り残された多くの人民は「毛沢東時代は貧乏だったけど、平等で良かった」と懐かしむようになり、毛沢東の小さな銅像をお守り代わりにしてネックレスにしたり、車にぶら下げたりすることがはやり始めた。

 もっとも顕著な動きは、健康のために朝の公園で太極拳などをする高齢者たちが、あちこちに輪を作って革命歌を歌うようになったことだ。革命は「紅い」ので、これを「紅歌」と称する。

「唱紅歌(革命歌を歌う)」現象は、全国的に広まっていき、やがて社会現象となり始めた。筆者はこれを「紅いノスタルジー」と命名し、その行動を追いかけてきた。

 2007年に薄熙来(はく・きらい)が、チャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員9名)に入れず、重慶市書記になると、この「唱紅歌」現象に目をつけ、自らを「毛沢東の再来」として毛沢東回帰により人民を惹きつけた。

 人民に対する人気を見せ付けて、「これでも、この俺様をチャイナ・ナインに入れないつもりか?」とチャイナ・ナインを威嚇し、個人崇拝をあおって結局逮捕されてしまった薄熙来。

 人民のボトムアップの「紅いノスタルジー」を自らの野心に利用した失敗例だった。

薄熙来を真似て(?)「毛沢東回帰」をしている習近平国家主席

 個人崇拝をあおった薄熙来は、「文化大革命の再来を招く危険人物」として、今は牢獄で終身刑の身を噛みしめている。

 だというのに、いま習近平は薄熙来の真似をしているのではないかと噂されている。

 薄熙来よりも「毛沢東回帰」が激しく、まるで自分は「第二の毛沢東だ」という言動ばかりしている。

 そもそも「虎もハエも同時にたたく」という反腐敗運動は、毛沢東の「大虎も子虎も同時にたたく」の言い換えであり、風紀を正すための「四風運動」は、毛沢東が延安時代に行った「整風運動」の模倣である。(拙著『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』のp.238で説明したが、「整風運動」は「形式主義、官僚主義、享楽主義」を取り締まって風紀を正そうという運動で、「四風運動」とは「形式主義、官僚主義、享楽主義、ぜいたく主義」を取り締まって党内の風紀を正そうとする運動である。毛沢東の「整風」に「ぜいたく禁止令」を付け加えただけで、すべて毛沢東の物真似だ。)

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