最新記事

BOOKS

曖昧な君が代は「歌わない国歌にせよ」という提案

賛否両論の狭間にある国歌の驚きの歴史を明らかにし、「聴く国歌」という新たな考え方を提示する『ふしぎな君が代』

2016年1月5日(火)11時25分
印南敦史(書評家、ライター)

ふしぎな君が代』(辻田真佐憲著、幻冬舎新書)は、常に賛否両論の狭間にある国歌「君が代」について、そのなりたちから多様な評価、そして今後のあり方までを論じた書籍である。

 いうまでもなく、「君が代」をめぐってはこれまで、肯定論と否定論が激しく対立してきた。肯定する側も否定する側も、ときとして感情に走る部分がなかったとはいえないだけに、論じにくい問題でもあったはずだ。

 そんななか、右の立場から「君が代」の強制を主張するわけでもなく、左の立場から否定するでもなく、歴史をたどっていくことによって中立な立場を貫き通す著者のスタンスは評価に値するだろう。さまざまな思惑が行き交うからこそ、その客観性には説得力がある。

 それにしても本書を通じて実感するのは、「君が代」について私たち、少なくとも私自身はあまりにも知らなすぎたということだ。もちろん最低限の知識は持っていたつもりだが、ページをめくっていくごとに「へー、そうだったのか」と驚かされるようなエピソードが明かされていくからである。

 たとえば、「君が代」の原型ができるまでの経緯がまさにそれだ。


 一八六九(明治二)年夏、フリゲート「ガラティア」艦長として世界を周遊していた英国王子エディンバラ公アルフレッド(ヴィクトリア女王の次男)が日本に立ち寄り、明治天皇に謁見することになった。史上初めての西洋王族の来朝であった。(中略)こうして歓迎の準備が進む中、突如として「国歌」の問題が浮かび上がった。横浜に駐屯していた英国陸軍第十連隊第一大隊軍楽隊長ジョン・ウィリアム・フェントンより「日本国歌はいかなるものでよろしいか」という問い合わせが接伴掛に届いたのである。(34ページより)

 かくして英国国歌「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン(神よ女王を守りたまえ)」とともに日本の「国歌」を演奏することになったものの、当時の日本には国歌という概念すら存在しなかった。そこで"新政府関係者の誰か"が、古歌としてすでにあった「君が代」の歌詞を選び、フェントンが作曲したことによりその原型が完成した。

 ところが、フェントンによるメロディは日本語の歌詞とまったく合っていなかったため、雅楽師の奥好義が改良。さらに明治12年3月にドイツから来日したフランツ・エッケルトが洋楽器用に編曲したというのである。

 しかも国歌となる過程においては、「"皇室の歌"にすぎない」、果ては「暗すぎる」などの批判も受けたのだという。いまでも賛否両論ある「君が代」は、そもそも誕生に至る経緯がアバウトで、それどころか当時から批判されていたということだ。また、さまざまなプロセスを経た結果、戦後は文部省(現・文部科学省)が新たな擁護者となったが、ここから「君が代」をめぐっての文部省と日教組(日本教職員組合)との対立がはじまることにもなる。

ニュース速報

ワールド

アングル:イタリア総選挙、甘い公約に潜む「債務の時

ビジネス

アングル:米株の波乱「まだ終わらない」、古参投資家

ビジネス

アングル:米株市場、長期金利への反応に変化 一部に

ワールド

焦点:足元の原油安、底打ちはいつか

MAGAZINE

特集:AI 新局面

2018-2・20号(2/14発売)

仕事を奪うとばかり恐れられてきた人工知能AIが新たにつくり出す可能性と、それでも残る脅威

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった

  • 2

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 3

    「愛してると伝えて」米フロリダの銃乱射の教室で何が起こったのか

  • 4

    岐阜県の盗撮疑惑事件で垣間見えた、外国人技能実習…

  • 5

    「死のない肉」クォーンが急成長 人工肉市場がアツい

  • 6

    50歳以上の「節操のないセックス」でHIV感染が拡大

  • 7

    フロリダ州銃乱射、悪いのは銃かメンタルか

  • 8

    北朝鮮の飢きんが生んだ「人造肉」 闇市と人民の工…

  • 9

    宇宙に打ち上げられたイーロン・マスクのテスラが地…

  • 10

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 1

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 2

    北朝鮮に帰る美女楽団を待ち伏せしていた「二重脱北者」

  • 3

    「愛してると伝えて」米フロリダの銃乱射の教室で何が起こったのか

  • 4

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 5

    50歳以上の「節操のないセックス」でHIV感染が拡大

  • 6

    「死のない肉」クォーンが急成長 人工肉市場がアツい

  • 7

    岐阜県の盗撮疑惑事件で垣間見えた、外国人技能実習…

  • 8

    広がる「工作員妄想」~三浦瑠麗氏発言の背景~

  • 9

    金正恩のお菓子セットが「不味すぎて」発展する北朝…

  • 10

    日本で中小企業が激減している根本的な理由は何か?

  • 1

    265年に1度? 31日夜、「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」が空を彩る

  • 2

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 3

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 4

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 5

    北朝鮮と戦う米軍兵士は地獄を見る

  • 6

    「逆にいやらしい」忖度しすぎなインドネシアの放送…

  • 7

    ビットコイン暴落でネット上に自殺防止ホットライン

  • 8

    北朝鮮を戦争に駆り立てるトランプに怯え始めたロシア

  • 9

    北朝鮮に帰る美女楽団を待ち伏せしていた「二重脱北…

  • 10

    被害者遺族を「カラオケに行こう」と誘う加害者の父

日本再発見 シーズン2
デジタル/プリントメディア広告セールス部員募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 特別編集

丸ごと1冊金正恩

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2018年2月
  • 2018年1月
  • 2017年12月
  • 2017年11月
  • 2017年10月
  • 2017年9月