中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化

2016年1月4日(月)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 また、これまで軍区を管轄していた総参謀部を中心としてでなく、習近平が主席を務めている中央軍事委員会と戦区の二つのレベルの「聯合作戦指揮体制」という機構を構築し、途中の指揮系統を省略して効率化を高めていくという狙いもある。

 情報戦という側面を考えれば、瞬時にして戦場の形勢が変化する可能性もあり、電光石火のごとき変化に俊敏に対応するには、命令指揮系統が多いと、作戦を誤る危険性もあるので、一気に動ける聯合作戦体制が不可欠なのだと、中国政府関係者は説明している。

(その意味で、総参謀部は、これまでのような絶大な力を持ちえなくなるかもしれない。)

 4大戦区案に関しては今のところ、「西北戦区(蘭州軍区+成都軍区)、華南戦区(広州軍区+南海艦隊+東海艦隊)、華北戦区(南京軍区+済南軍区)、東北戦区(瀋陽軍区+北京軍区+北海艦隊)」という話もチラホラとあり、そうではなくて「東西南北+中部」の5区分にするとも言われており、これに関しては決定的な決議はまだなされていない。

戦略支援部隊と紀律検査委員会

 このたび創設された部隊の中に、「戦略支援部隊」というのがあるが、これに関して1月1日に開催した国防部外事弁公室による記者会見で、「これは国家安全を守る新型作戦戦力で、軍事力を高めると同時に総合保障能力を高める」と回答している。上記の改革が実行されたのちに正式に動き始めるとのこと。

 それ以外にも軍事委員会内に紀律検査委員会を設置し、軍事法院(軍事裁判所)や軍事検察院(検察庁)も設けて、腐敗の防止に軍事委員会が直接目を光らせることなどが、軍事委員会改革工作会議で決議されている。

 このとき発表された「国防と軍隊改革を深化させることに関する意見」をめぐって、軍事専門家に新華社がインタビューした記事が、たとえば今年1月1日の中華人民共和国国防部ウェブサイトや、1月2日の人民網などに転載されている。
中国語だが、詳細を知りたい方は、これらのページをクリックしてみていただきたい。

中共中央軍事委員会の強化と集中的な統一指揮

 軍事はもちろん中央集権的でないと強烈な力を発揮できないだろうが、このたびの大規模軍事改革から、「即戦力の向上と命令指揮系統の効率化」以外に、「中共中央軍事委員会の強化と集中的な統一指揮」を目指していることが見えてくる。

 それはすなわち、そのトップに立つ習近平主席の一極集中化を際立たせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中