最新記事

テクノロジー

北朝鮮の独自OS、政治体制を反映し特殊な進化を遂げる

ジョブズもビックリのクールなUIに、機密漏洩を防ぐ高度なセキュリティを実装

2015年12月28日(月)16時17分

12月27日、ドイツの情報技術(IT)企業ERNWの研究者らは、北朝鮮が独自開発したパソコン用基本ソフト(OS)の「レッドスターOS」を国外からダウンロードして調査を行った。写真は「レッドスターOS」のデスクトップ画面。ソウルで23日撮影(2015年 ロイター/James Pearson)

 北朝鮮が独自開発したパソコン用基本ソフト(OS)の「レッドスターOS」は、国内の政治体制を如実に反映しており、利用者のプライバシーを侵害して個人情報を入手する機能なども含まれている──。このOSのコードを徹底的に調査したドイツの研究者2人が明らかにした。

 今回の調査で分かったのは、北朝鮮が、コンピューターとインターネット社会のメリットを取り込みながらも思想や文化の手綱を締め続けるにはどうすべきかという問題に直面しているということだ。

 調査は、ドイツの情報技術(IT)企業ERNWで研究に携わるフロリアン・グルノウ氏とニクラウス・シエス氏が、北朝鮮国外からダウンロードして実施。27日にハンブルクで開かれたハッカーやセキュリティー問題研究者の会合で公表するのに先立ち、ロイターに内容を語った。

 北朝鮮は10年以上も前から独自OSの開発に従事しており、レッドスターOSは2003年に作成された。Linuxをベースに「ウィンドウズXP」を少し修正してアップルのパソコンMacシリーズ用OSの「OSX」風に仕立てた。これは父親の故金正日氏と同様に公開されている写真にMacとともに収まっている金正恩第1書記の承認を得るための作業とみられる。

 いずれにしても調査結果からは、単なる西側のOSのコピーではないとの結論が得られた。グルノウ氏は「これは、まさしく金正日氏が必要だと唱えていた独自OSを完成させたものだ」と述べた。

 同氏によると、ほとんどのコードをコントロールしているのが大きな特徴だ。その狙いは情報機関によってコードが影響を受けるのを避けることにある。

 同氏は「多分、恐怖心が誘因になっている。指導部が懸念しているのは彼らに対してスパイ行為を働かれることだから、他のOSからの独立性を維持したがっているのかもしれない」とみている。

改変は困難

 レッドスターOSは、だれであっても改変するのは非常に難しい。ファイアウォールの無効化など主要機能を変えようとすれば、コンピューター画面上にエラー表示が出るか、自動的に再起動してしまう。

 このOSには当局にとってより差し迫った問題への対策も入っている。それは国内で密かにやり取りされている外国の映画や音楽、出版物の取り締まりだ。

 こうしたコンテンツはUSBスティックやSDカードなどを通じて個人間で流通しており、政府は出所をなかなか突き止められないのが現状だが、レッドスターOSはコンピューター上のすべての文書やメディアファイル、もしくは接続したUSBスティックに「電子透かし」を埋め込むので、だれが以前にファイルを開いたかや作成したかが把握できる。

 グルノウ氏は「プライバシーの侵害に当たるのは間違いない。利用者にとって透明性に欠ける」と指摘する。

 こうした動きについて専門家からは、北朝鮮政府が新たな技術や新たな情報源に対して監視・防衛態勢を刷新する必要性を認識していることの表れだとの声が聞かれた。

 今回調査では、レッドスターOSに何らかのサイバー攻撃能力があると考えるべき材料は見当たらないという。

 (Jeremy Wagstaff、James Pearson記者)

 

[シンガポール/ソウル 27日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「南アG20に属すべきでない」、今月の首

ワールド

トランプ氏、米中ロで非核化に取り組む可能性に言及 

ワールド

ハマス、人質遺体の返還継続 イスラエル軍のガザ攻撃

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中