最新記事
社会

インド「聖なる牛」の闇市場

ヒンドゥー至上主義を掲げる与党による牛の屠殺反対運動が激化、宗教間の対立が深まればモディ首相の経済改革が滞る可能性も

2015年12月24日(木)17時00分
ジェーソン・オーバードーフ

食べない インドの人口の80%はヒンドゥー教徒で、多くは牛を神聖な動物と信じている Danish Siddiqui-REUTERS/

 インド東部の街コルカタ(カルカッタ)で150年の歴史を誇るタングラ食肉処理場の外では、植民地様式の建物の横で、牛が長い列を成して並べられている。処理場内に響いているのは、牛肉の値段交渉をする大きな声だ。

 とはいえ、ここは普通の取引の場ではない。写真撮影は禁じられ(少なくとも今日は)、私は取材メモを取ったり質問したりしないという条件でようやく中に入れてもらえた。牛を神聖な動物と見なすヒンドゥー教徒が多数を占めるインドでは、牛肉や牛革を扱うビジネスはさまざまな問題を抱え、微妙な状況に立たされている。

「人々の間に恐怖心が広がっている」と、コルカタで皮なめし工場を経営するサイド・ファイヤズル・ハクは言う。この数週間で、牛肉を食べたと疑われ、少なくとも3人が殺害されたためだ。ヒンドゥー教徒の愛国主義者たちが牛の食肉処理を禁止する活動を全国で行っており、宗教間の緊張が高まっている。

 ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)はヒンドゥー至上主義を掲げ、10~11月に東部ビハール州で実施された州議会選挙で牛肉問題を争点にした。イスラム教徒を敵に仕立てることで、ヒンドゥー教徒の票が割れないようにするためだ。しかしBJPは243議席中58議席しか獲得できず、大敗した。

 この選挙結果を見て、インド全土のイスラム教徒や世俗的なヒンドゥー教徒は喜んだ。これでモディは政権を取った当時の公約どおり経済政策に集中してくれるだろうと、再び期待を寄せたのだ。しかし牛肉や牛革を扱う事業主や、インドへの投資に意欲的だった外国人投資家らは、もはやモディに対する希望を失ったかもしれない。

牛肉の輸出量世界一の謎

 インドで牛を殺すことは文化的にタブーだ。それでも食肉や革製品のために牛を殺して処理することは29州のうち5州で合法とされている。特にコルカタを州都とする西ベンガル州は、牛肉や革ビジネスの中心地だ。

 コルカタでこうした産業に従事する業者たちによれば、10月に牛の屠殺反対運動が激化して以来、牛やその革、死骸を輸送するトラックが次々と自警団に止められているという。

 特に10月に北部のジャム・カシミール州で牛の死骸を運んでいると非難された運転手が殺された事件を受けて、多くの運送業者が怯えている。ヒンドゥー教徒は水牛を神聖な動物と見なしておらず、水牛の屠殺は禁じられていない。しかし牛の死骸や革と見分けがほとんどつかないために、水牛の死骸や革の輸送も安全ではないという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物7%上昇、22年半ば以来の高値 G7備蓄放

ワールド

トランプ氏、対イラン作戦「ほぼ完了」 想定より早く

ビジネス

米国株式市場=反発、イラン作戦「ほぼ完了」とのトラ

ワールド

米ロ首脳が電話会談、イラン情勢など協議=ロシア大統
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 10
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中