最新記事

NATO

ロシアが欧州に仕掛けるハイブリッド戦争

狙いはウクライナだけじゃない、英仏など西ヨーロッパの国々でも攻撃は既に始まっている

2015年8月18日(火)18時58分
ダミアン・シャルコフ

黒幕 ウクライナ紛争で使われた薬きょうで作った作品「戦争の顔」 Gleb Garanich-REUTERS

 軍事力と世論操作などの非軍事手段を併せたプーチン露大統領の「ハイブリッド戦争」。ウクライナ介入を通じて学んだとされるその手口がますます露骨になってきた。新しいのは、極左だろうと極右だろうと、NATO諸国を内側から揺るがしそうな政治勢力に金を渡して肩入れする非軍事手段。そしてハイブリッド戦争の目的は、NATO諸国の結束を乱して攻撃を仕掛けることだ。

 ウクライナ保安局(SSU)は先週声明で、ロシアが秘密のルートを介して同国の左派グループに資金を供給し、同国西部で行われる選挙に介入しようとしていると非難した。

 ウクライナ最西部でEU加盟4カ国に隣接するザカルパッチャ州で、モスクワの民間団体を装ったロシアの諜報機関が左派政党に不当な影響力を行使しようとした疑いがあるという。資金提供を受けた政党の行為は国家反逆罪にあたると、公式に警告書を送付したという。

 この政党が資金提供の見返りにどんな活動を求められたのか、また具体的にどの政党を指しているのかについては触れられていない。ウクライナには、「社会民主党」「共産党」「社会党」など多くの左派政党があるが、どの政党も今回の件について沈黙を守っている。ロシア政府から公式の反応もない。

 ザカルパッチャ州は、ウクライナ軍とロシアの支援を受けた分離・独立派が戦闘を行っている東部の前線からは遠く離れているものの、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアと陸路でつながるウクライナの玄関口である上、ポーランドとも隣接している。すべてNATO加盟国だ。どちらにとっても戦略的重要性は決して低くない。

 ロシアと他国政党とのつながりについて疑惑が生じるのはこれが初めてではない。フランスの極右政党、国民戦線は昨年9月、モスクワの銀行から900万ユーロ(約12億円)の融資を受けた。ドイツ議会の外務委員長を務めるノルベルト・レットゲンも6月、マリーヌ・ルペン国民戦線党首に融資を行ったとしてプーチンを非難した。イギリスで2017年までに行われるEU離脱をめぐる国民投票に関しても、EU懐疑派が勝つよう資金供給を行った可能性があると述べている。

 NATOのアナス・フォー・ラスムセン元事務総長は4月、ロシアはギリシャやハンガリー、ブルガリア、フランスの政党およびヨーロッパ各地の非政府組織(NGO)への資金供給ルートなどを駆使して、ヨーロッパにハイブリッド戦争を仕掛けようとしていると本誌に語った。狙いはウクライナだけではない、ということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中