最新記事

中ロ関係

毛沢東の亡霊がモスクワに? 中ロ激突前のはかない蜜月

2015年6月1日(月)11時50分
楊海英(本誌コラムニスト)

 さらに毛は「大躍進」の名の下、農村の人民公社化を推進。何千万人もの自国民を餓死に追い込んだが、今なお中国は社会主義の看板を下ろしていない。

 それから半世紀。毛の路線を堅く守り、毛と同じくらいやぼったい習近平(シー・チンピン)国家主席を、同じくソ連圏の復活をもくろむロシアのプーチン大統領は軍事パレードで温かく歓迎。傍らに座らせて戦車群を走らせてみせた。

 プーチンと習は蜜月ぶりを最大限演出しているが、中ロ両国は心底、相手を信用していない。50年代末から中ソ対立が激化し、互いを「修正主義」と罵倒し、「赤の広場」も天安門広場も「修正主義の巣窟」だと呼び合っていた。69年春にはオホーツク海に注ぐアムール川(黒竜江)支流のダマンスキー島(珍宝島)で武力衝突が発生し、核戦争に発展する一歩手前だった。

 その頃、プーチンはソ連の情報将校を目指し、習は中国内陸部の横穴式住居、窯洞(ヤオトン)に住み、下放生活に明け暮れていた。現代史の同時代人であり、「歴史を忘却するな」と誰よりも口うるさく語る2人が、両国の過去の怨念をきれいさっぱり置き去りにしたとは言い難い。

 それに今、ロシアは人口減少に直面している。都市への憧れから若者を中心に大挙してサンクトペテルブルクなどヨーロッパ・ロシアに向かう一方、人口が希薄となったシベリアに入植した中国人は100万人を下らないとの統計がある。帝政以来、「ロシア人が鮮血を流して獲得した土地」を習の仲間たちに譲り渡すほどの気前よさなど、プーチンにはないはずだ。

 習が進める「シルクロード経済圏構想」とプーチンの「ユーラシア経済同盟」が正面からぶつかり合う時代もやがては来るかもしれない。モスクワに現れた毛の肖像画も、一瞬の亡霊にすぎないだろう。

[2015年5月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー

ビジネス

焦点:日鉄、巨額投資早期に回収か トランプ米政権の

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中