最新記事

政治体制

世界で後退する民主主義

民主化が繁栄につながる時代は終わったのか。新興民主主義が次々機能不全に陥るなか、独裁体制の中国独り勝ちの皮肉

2014年6月17日(火)15時58分
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)

イラクも遂に崩壊? イスラム教過激派グループISISの暴力を恐れてイラク第2の都市ホムスから逃げ出した家族 Azad Lashkari-Reuters

 89年6月4日未明、天安門広場に戦車が入ってきたとき、1カ月以上にわたって続いた民主化運動もこれで終わりだと、誰もが思った。多くの学生や民衆が広場を後にする一方で、そこを動こうとしない人も数百人(あるいはもっと)いた。

 そこまでは予測できた。予想外だったのは、あれから25年たっても、中国の民主化が夢のまた夢であることだ。いや、もう夢でさえないかもしれない。

 当時は多くの専門家が、天安門事件とソ連崩壊によって中華人民共和国は存亡の危機にさらされるだろうと考えた。89年11月にはベルリンの壁が崩壊して東ヨーロッパの民主化が一気に進み、2年後にはソ連が正式に解体。世界中が民主化に向かって進んでいるように見えた。

 実際、一時的だが民主化のドミノ現象は起きた。しかし天安門事件から25年後の今、中国だけでなく世界中で民主主義は逆風にさらされている。

 エジプトでは11年、独裁的地位を30年近く維持してきたホスニ・ムバラク大統領が失脚。中東のど真ん中に民主主義国が誕生すると期待が高まったが、その期待は見事に打ち砕かれた。

 ムバラク後に実権を握ったのは軍であり、選挙で選ばれたムハンマド・モルシ大統領も就任1年で解任された。その一方で、軍のトップとして中心的な役割を果たしたアブデル・ファタハ・アル・シシ国防相は、先月末の大統領選に圧勝。ムバラクよりも独裁的な体制を築く恐れがある。

 エジプトだけではない。チュニジアを除き、11年の「アラブの春」に始まった中東の民主化運動はすべて混乱に陥ったか、息絶えたように見える。

 民主主義の混乱を最も劇的に示しているのはウクライナだろう。親ロシア派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が昨年11月、EU加盟に向けた手続きをほごにすると、親EU派の市民が反発。首都キエフの独立広場を中心に大規模な抗議デモを始めた。

 この騒ぎでヤヌコビッチは解任されたが、隣国ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は黙っていなかった。ウクライナは歴史的にロシアの重要な緩衝国だ。そのウクライナがヨーロッパの民主主義国の仲間入りをするのを許すわけにはいかない。

 プーチンはウクライナ南部のクリミア半島にロシア軍を送り込んでクリミアの分離・ロシア編入を推進。さらにロシア系住民の多い東部の混乱を煽るなど、あの手この手でウクライナをロシアの影響下に置こうと揺さぶりを掛けてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、FOMC通過で ダウ上昇

ビジネス

米0.25%利下げは正しい措置、積極緩和には警鐘 

ビジネス

BofA、米国内の最低時給を25ドルに引き上げ 2

ビジネス

7月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中