最新記事

米外交

優柔不断オバマ、もう1つの罪

シリア反政府勢力が1年前に要請していたガスマスクの供給を米政府は拒否していた

2013年9月12日(木)15時32分
ジョシュ・ロギン(外交・安全保障担当)

必需品? アサド派に攻撃を仕掛ける前にガスマスクを装着する自由シリア軍の兵士(9月4日) Ammar Abdullah-Reuters

 内戦が続くシリアで先月21日、政府軍によって化学兵器が使用された疑惑が高まっている。

 そんななか、反体制派が1年以上前からガスマスクなど化学兵器の防護用具の供給を要請していたにもかかわらず、オバマ米政権が拒絶していたことが本誌の取材で明らかになった。

 今回攻撃を受けた地域は、ガスマスクや神経ガスの解毒剤が決定的に不足しており、市民や反政府勢力は日用品で一時しのぎのマスクを作っている。今後も化学兵器が使用される可能性はあり、反体制派の支配地域では焦りが広がっている。

 その焦りは、オバマ政権に対する怒りといら立ちにもつながっている。「3カ月ほど前、政府側が反体制派の拠点ホムスで化学兵器を使用する可能性があるという情報をつかんだ」と、反体制派・ホムス革命評議会のアボ・サリームは言う。

「情報をアメリカの外交当局に提供しガスマスクの供給と訓練を要請したのに、何の回答もなかった。その2週間後、政府側は予想どおりホムスで化学兵器を使用した。それもアメリカに報告したが反応はなかった」

 実際、サリームは6月に複数のオバマ政権高官に宛てた電子メールで、「アサド政権が国民に対して化学兵器を使用するのをやめさせるため、国際社会が速やかに介入することは倫理的かつ法的義務だ」と訴えた。

 一方、ガスマスクの供給要請は6月どころか1年以上前になされていたとの指摘もある。ある元オバマ政権関係者によると、1年以上前にホワイトハウスの国家安全保障担当スタッフが、シリアに対する人道援助と医療援助の内容を検討した際、ガスマスクはリストから外された。

 アメリカの国防総省が中東諸国に確保している倉庫には、イラク戦争のとき用意したガスマスクが何千個も余っている。「在庫は大量にあるから、マスクを確保できないはずがない」と、この元政権関係者は言う。

「内戦当初から、自由シリア軍(FSA)への援助は、ごくわずかでも極めて及び腰だった。オバマ政権の官僚に先を見る目がなかったのだ。今そのツケが回ってきた」

北朝鮮さえ支援している

 別のオバマ政権高官は先月末、確かに昨年、シリアの反体制派にガスマスクを供与することが検討されたが、意図した相手に渡らない可能性があるとして断念したことを認めた。

「反体制派に防護用具を供与すると言えば聞こえがいいが、悪用される可能性もある」と、この高官は言う。「それに防護用具を正しく使ってもらうには訓練が必要だ。誰にどう提供するか慎重にならざるを得ない」

 だが、米議会共和党の一部は憤慨している。「(アメリカの)メンツは丸つぶれだ」と、ある共和党有力議員の側近は言う。「北朝鮮でさえ自分たちが支持する側(シリア政府)にマスクを供給しようとした。それなのにアメリカに助けを求める善良な市民の声は無視されてきた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中