最新記事

ロシア

プーチン夫人、離婚前の謎の「空白期間」

プーチン大統領の妻リュドミラは、ここ数年公の場から姿を消し、修道院にいるという噂まで浮上していた

2013年6月10日(月)14時12分
アンナ・ネムツォーワ(モスクワ)

陰の女 昨春の大統領就任式にて。リュドミラ(右)はこの日を境に、公の場から姿を消した Aleksey Nikolskyi-RIA Novosti-Pool-Reuters

 ファーストレディーの誕生日なのに、祝いのイベントもなければ花火もなし。アメリカだったら考えられないけれど、ロシアなら?

 1月6日は、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの妻リュドミラの55歳の誕生日だった。しかし花火どころか1行の報道もなし。昨年は「リュドミラはどこに?」とか「大統領が妻を修道院に隠蔽!」といった書き込みがネット上に出現したものだが、今年に入ってからは彼女のことなどまったく忘れてしまったかのようだ。

 ロシア人はもともと「大統領の妻」に関心がなく、ファーストレディーが注目を浴びる機会はめったにない。だがそれにしても、プーチンの妻リュドミラはあまりにも影が薄い。

 リュドミラの姿は過去に何度かテレビに登場しているが、ほとんどは単に姿を見せた程度。夫と一緒の公式写真は、昨春の大統領就任式が最後だった。彼女の誕生日パーティーが開かれたことを示す写真が公表されたこともない。

 ロシア連邦議会議員のミハイル・デグティアレフは本誌の取材に、夫人が55歳の誕生日を迎えたとは「知らなかった」と驚いた。「メディアが無視したせいだ。私たちはいいかげんな話ばかり聞かされて、肝心なことを知らされていない」

 その日、プーチン大統領はどうしていたのか。なんと黒海沿岸の別荘にいて、ロシア国籍の取得を申請していたフランス人俳優ジェラール・ドパルデューにパスポートを渡し、親しげに肩を組む姿が大々的に報じられた。

 その場に、リュドミラの姿は見当たらなかった。

ゴルバチョフの妻が物語る教訓

 プレハーノフ経済大学(モスクワ)の副学長で、以前はプーチンのよき助言者であったセルゲイ・マルコフによれば、リュドミラが表舞台から姿を消したのは08年以降のこと。それ以前の彼女は「公の場で大統領を困惑させ、ある意味、お荷物になっていた」らしい。

 その後、リュドミラがどこにいるかは不明だった。一部では、プスコフ郊外の修道院にいるとか、パリにいるとか、さまざまな説が浮上したが、どれも噂の域を出なかった。

 欧米人の目にはなんとも奇妙に映るが、ロシア人にとっては不思議なことではないようだ。伝統的にロシア国民は、国の指導者が公の場に妻を同伴しなくても別段おかしくはないと考えてきた。指導者の妻は陰の存在なのだ。

 そうした「目立たない妻」たちの中で、過去に注目を浴びた女性が1人だけいる。元ソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフの妻ライサだ。彼女は積極的に発言し、ファッションセンスにも優れ、知性にあふれていた。夫の外遊やパーティーに同行し、自ら基金やクラブを運営し、夫の著書の編集まで手掛けた。だが国民はライサを愛せなかった。

 彼女がフランスのブティックでブランドものの服や宝石を買っているとき、ロシアの女性たちは牛乳1本買うのにも長い行列に並び、タイツを買い替える余裕もない生活を強いられていた。「大部分の国民は、ライサが夫を操縦するのを不快に思っていた。ロシアでは昔から、女性は身の程を知るべきだとされているからだ」と、政府寄りのシンクタンクのアナリストであるユーリ・クルプノフは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

金正恩氏が無人機試験視察、AIによる強化を命令=朝

ワールド

全国CPI、8月は前年比+2.7%に鈍化 市場予想

ワールド

仏で財政緊縮巡りデモ・スト、100万人参加と労組 

ワールド

国連安保理、ガザ停戦決議を否決 米が6回目の拒否権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中