最新記事

尖閣

米ソ冷戦より深刻な日中の「新冷戦」

自衛隊艦への射撃用レーダー照射事件は、冷戦期にもなかった深刻な要素を含んでいる

2013年2月20日(水)15時14分
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学教授)

背筋が凍る レーダー照射を受けたとされる海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」 U.S. Navy

 日本と中国が領有権をめぐって対立している尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺の海域は先月30日、にわかに緊迫感に包まれた。中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に対し、射撃用レーダーを照射したからだ。

 射撃用レーダーを照射するのは相手をミサイルや砲撃の目標と認識しているということだから、攻撃の前段階とみられてもおかしくない。

 この事件の前に、尖閣諸島とその周辺海域の日本領空を飛行する中国機に自衛隊機が警告射撃を行うと日本メディアが報じていた。事実とすれば、中国公船による領海侵犯が頻発していたことへの対抗措置である。日本側は、先月19日にも中国軍の艦船から海上自衛隊のヘリコプターに同様のレーダー照射があったとしている。

 まったく背筋が凍るような進展ではないか。

 今では相当に年を取っているはずの元海兵たちにしてみれば、強い海軍力を持つライバル国同士のやり合いなど目新しい話ではないだろう。冷戦期を振り返れば、アメリカとソ連の海軍は常に一触即発のにらみ合いを続けていた。

選択肢が狭まる危うさ

 特に緊張が高まっていたのは70〜80年代。ソ連のセルゲイ・ゴルシコフ元帥が海軍の近代化に努め、アメリカと肩を並べるまでにしたためだ。

 米ソ間で戦闘機や水上戦闘艦、あるいは潜水艦が相手を攻撃対象にしたり、作戦を仕掛けることは珍しくなかった。その理由はいくつもある。

 例えば相手を挑発して防御態勢を取らせれば、実際に戦闘状態になったときの手の内が分かる。敵の「持ち札」について情報を集める貴重な機会にもなった。仮にレーダーを照射されても、レーダー波を記録して分析すれば相手の弱点を探り出せる。そうなれば戦術面で優位に立つことも可能になる。

 しかし日中間の現在のやり合いは、冷戦期とは異質なものに思える。米ソは確かに相手を威嚇する態度で向き合っていたが、そこにはある種の「余裕」があった。米ソ間のにらみ合いは戦術的な要因に基づくもので、地図上に存在する領土をめぐるものではない。対立心の火に油を注ぐ要因が、それほど強いわけではなかった。

 当時は、イデオロギー的な対立は日常的といえた。「敵」にちょっかいを出すのも、さほど深刻なことと考えずに済む空気があった。しかし米ソが海で争った時代に、両国は覇権を懸けていたわけではない。覇権とは、ギリシャの歴史家のツキディデスが戦争の動機として挙げた「恐怖」や「名誉」にもつながるものだ。

 それでもあまりににらみ合いが続いたために、米ソは海上でのいざこざをしっかりと整理できる約束事が必要だと考えるに至った。日本と中国は、今こそ自制心を働かせることを学ぶべきだろう。

 意図的な挑発だけでも、十分に深刻な問題だ。そこへ意図せぬ出来事が起き、日中両国の選択肢を狭め、拙速な意思決定を迫ることになれば、事態はさらに悪化する恐れがある。

From the-diplomat.com

[2013年2月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン軍艦がスリランカ沖で沈没、米潜水艦が攻撃 少

ビジネス

フィッチ、インドネシア見通し「ネガティブ」に下げ 

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

スイス中銀、為替介入意欲が高まる=副総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中