最新記事

米中関係

米大使が見たスパイ映画並みの中国政治

就任早々重慶スキャンダルと陳光誠事件に相次ぎ見舞われたゲーリー・ロック米中国大使が本誌に語る事件の真相

2012年7月3日(火)17時14分
メリンダ・リウ(北京支局長)

百戦錬磨 重慶スキャンダルに、盲目の人権活動家の脱出劇。相次ぐスパイ映画のような事件にも動じないロック Keith Bedford-Bloomberg/Getty Images

 2月6日午後、アメリカのゲーリー・ロック駐中国大使は大使館を離れて、北京市内で会合に出席していた。スマートフォンに意味深長なメールが届いたのはそのときのことだ。「盗聴されず通信できる大使館内のエリアに、直ちに戻ってください」

 慌てて大使館に戻ると、待っていたのは驚くべき知らせだった。四川省成都の米総領事館に重慶市の副市長がやって来て、政治亡命を求めているという。

 王立軍(ワン・リーチュン)副市長は重慶のマフィア撲滅運動の責任者を務めていた人物だが、市トップの薄熙来(ボー・シーライ)・重慶市共産党委員会書記に殺害される危険があると主張していた。薄の妻子と接点があったイギリス人実業家ニール・ヘイウッドが昨年11月に市内のホテルで毒殺されたとされる事件で、多くを知り過ぎたことが命を狙われる理由だという。

「非常に興味深い、驚くべき話だった」と、ロックは本誌の独占インタビューで語った。「思わず口をついて出たのは、『何てことだ! 本当に信じられない!』という言葉だった」

 薄は、次期最高指導部入りが確実視されていた中国共産党の大物幹部。それだけに、王への対応には細心の注意を要した。しかも、事態はその後ますますヒートアップした。薄は成都の米総領事館に警官隊を派遣して、王の身柄引き渡しを要求。 王は重慶警察への投降を拒み、中央政府の治安当局によって北京に移送されることを選んだ(その後、王は国家反逆罪で告発され、薄は失脚、薄の妻はヘイウッド殺害容疑で逮捕された)。

「まるでスパイ映画の世界のようだった」と、ロックは一連の重慶スキャンダルをめぐる騒動を振り返る。

米国が望んだ穏便な処理

 その後の約4カ月間、ロックは中国大使として、歴史に残る激動の日々を経験する。王立軍事件に続いて、4月には自宅軟禁されていた盲目の人権活動家・陳光誠(チェン・コアンチョンの脱出劇をめぐる騒動の渦中に放り込まれることになる。

 62歳のロックはシアトルで生まれ育った中国系アメリカ人だ。エール大学、ボストン大学法科大学院を経て検察官として働いた後、政界に転身。97〜05年にかけて、ワシントン州知事を2期務めた。中国系アメリカ人が州知事になったのは史上初めてだった。

 99年にシアトルでWTO(世界貿易機関)の総会が開催された際、反対派のデモが過激化して警察の手に負えなくなると、ロックは冷静沈着に州兵の投入を決断。騒乱を沈静化させた。

 03年には、命を狙われたこともあった。FBIによれば、ロックの暗殺計画が存在したという。脅迫の電子メールが届いたほか、ある白人至上主義グループのメンバーが知事室の受付まで近づいたこともあった。

「(子供たちの安全を考えると)とても不安だった」と、ロックは当時を振り返る。「その男は、マイノリティーがワシントン州の知事を務めることを好ましくないと考えていたのだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=

ワールド

フィリピン成長率、第3四半期+4.0%で4年半ぶり

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中