最新記事

動物

ロンサム・ジョージが人類に遺した教訓

ピンタゾウガメ最後の1頭が死んだ。地球は「6回目の大量絶滅時代」を迎えたのか

2012年6月27日(水)17時17分
ウィル・オリマス

孤独な最期 ジョージは40年以上もたった1頭で生き延びた Guillermo Granja-Reuters

 ロンサム・ジョージ(孤独なジョージ)はもういない。地球上に残る最後のピンタゾウガメとして世界中で知られていたロンサム・ジョージが6月24日、生息していたガラパゴス諸島でこの世を去った。死因は心不全とみられ、推定年齢は約100歳だった(おそらく)。ピンタゾウガメの寿命は200歳とみられ、若すぎる死だった。

 ロンサム・ジョージの運命は、人類が地球に出現してから他の大型動物がたどった運命と同じだ。かつてアメリカ大陸は、現在では想像もできないような大型哺乳類たちの楽園だった。SUV車ほどの大きさのショート・フェイス・ベアや巨大なダイアウルフ、現在のゾウよりも大きなオオナマケモノ......。

 彼らはすべて紀元前1万年頃に突如として姿を消した。ちょうどアジア大陸と北アメリカ大陸をつないでいたベーリング陸橋を、人類が初めて渡ったとされる時期からそう長くない頃だ。

 この時期は直近の氷河期が終わった時期とも一致するため、絶滅の原因は気候変動だとする古生物学者もいる。だが氷河期が終わった後、人類が地球を支配するようになった時代にも動物たちの絶滅は速いペースで続いた。そう考えると地球は現在、6回目の「大量絶滅時代」を迎えているのかもしれない(5回目が起きたのは約6500万年前で、恐竜などが絶滅した)。

 大型動物は毎年絶滅していく何万もの種のうちのほんの一部にすぎないという人もいるだろう。だがそれはそもそも大型動物の種類が少ないからだ。生き残っている種の多くも、その頭数はきわめて少ない。

トラもゴリラもサイも消える?

 ピンタゾウガメが絶滅に向かった要因は人間が島に持ち込んだヤギが野生化し、ピンタゾウガメが餌とする植物を食い荒らしたからだとされる。ロンサム・ジョージは、餌不足のため消えていった最後の仲間より40年以上も長く生き延びた。

 そんな奇跡が他の種でもみられるとは限らない。シベリアトラはもう地球上に数百頭しかおらず、マウンテンゴリラは1000頭以下、クロサイは数千頭しかいない(亜種のニシクロサイは昨年絶滅が発表された)。ヨウスコウカワイルカも生き残りがいたしても、その数は1桁だろう。

 1971年にロンサム・ジョージが発見されたとき、ガラパゴス国立公園の職員たちは大喜びした。ピンタゾウガメは既に絶滅したと思われていたからだ。彼らは何十年にもわたって近くの島のゾウガメとの交配を試みたがうまくいかなかった。

 繁殖が成功していれば、この種はまだ生き残っていたかもしれない。人類による保護の取り組みは時に絶滅の危機にある種の回復を助けることもある。だがロンサム・ジョージの例は、一度その数が危機的なレベルにまで減少した種の数を増やすのは容易ではないことを教えてくれる。

 現在、ヨウスコウカワイルカがどれほどの孤独の中にいるのかは分からない。だが、彼らがこれからたどる運命はロンサム・ジョージと同じものであるような気がしてならない。

©2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネトフリのワーナー買収、米与野党議員から独禁法違反

ワールド

仏大統領、中国に関税警告 対EU貿易黒字巡り=仏紙

ワールド

仏大統領、ウクライナ情勢協議へ8日にロンドン訪問 

ワールド

香港議会選の投票率低調、過去最低は上回る 棄権扇動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中