最新記事

中東

シリアの大量虐殺を傍観する国際社会の大罪

国連安保理は非難決議を採択できず、アナン特使の仲介も実らないなか、またも多くの市民が犠牲に

2012年3月13日(火)16時19分
ティム・フィッツシモンズ

無策の末 子供の無残な遺体も発見されている Reuters

 アサド政権による反体制派への激しい弾圧が続いているシリア。反政府勢力の拠点だった中部の都市ホムズは熾烈な攻防の末に政府軍に奪還され、住民への報復行為は激しさを増す一方だ。

 先週にはコフィ・アナン前国連事務総長が国連とアラブ連盟の合同特使としてシリアを訪れ、アサド大統領に弾圧の即刻中止を求めたが、会談は物別れに終わった。3月11日、アナンが何の成果もないまま首都ダマスカスを去ったわずか数時間後、「虐殺」の実態を伝える衝撃的な写真がフェイスブックに掲載された(注:残酷な写真です)。

 シリアの反政府活動家らがアップした約40枚の写真は、ホムズのカーム・エルゼイトウン地区で11日に撮影されたもので、頭部に大きな穴の開いた子供や黒焦げの遺体が並んでいる。

「冷酷な」殺戮行為があったことは政府当局も反政府陣営も認めているが、誰の犯行かという点をめぐっては主張が真っ向から対立している。

ロシアと中国がシリア非難決議に反対

 国連安全保障理事会はシリアに弾圧停止を求める決議案の採択を2度に渡って行ったが、いずれも常任理事国であるロシアと中国の反対で廃案に。シリアの反体制勢力が結成した「シリア国民評議会」は、複数の外国政府の支援を受けて反体制派兵士の武装を進めていると発表した。

 反政府陣営は、ホムズでの虐殺は政府軍と関係が深い民兵組織「シャビハ」の仕業だと主張している。一方、シリアの国営メディアは大量殺戮の事実は認めたものの、翌12日の国連安保理外相級会合に先立って「アサド政権に国際的な非難が集まる」ことを願う「テロリスト」によるものだと報じた。

 反体制派グループの見解も一枚岩ではない。活動家のハディ・アブドラは「シリア政府軍と民兵組織」が市民を殺害し、子供26人と女性21人の遺体が見つかったとAFP通信に語った。

 一方、反政府組織のネットワーク「地域調整委員会(LCC)」によれば、11日の死者はシリア全土で108人。ホムズ市内で死亡したのは70人で、そのうち45人が虐殺の犠牲者だという。

 11日の虐殺が起きる数時間前、アナン特使は停戦の合意を取り付けられないままシリアを後にしていた。反政府勢力もアサド大統領も停戦調停に応じなかったためだ。

 無差別殺戮の激化を受けて、ホムズを脱出してレバノンなどに向かう人の数は増え続けている。「カーム・エルゼイトウンでの虐殺のニュースを知り、町を脱出した」と、夫と娘とともにレバノンのトリポリにたどり着いた女性は語っている。


GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中