最新記事

テロ

大物テロリスト殺害で得する居座り大統領

自国に潜伏していたアルカイダ系組織幹部アウラキの殺害を利用し、自らの「延命」を狙うイエメンのサレハ大統領

2011年10月3日(月)16時42分
ヒュー・マクラウド

最重要ターゲット アメリカ生まれのアウラキは巧みな話術とIT技術を武器に、世界各地でテロリストを勧誘していた Intelwire.com-Reuters

 CIA(米中央情報局)の無人機による攻撃で先週、イエメンに潜伏していたアルカイダ系のイスラム武装勢力「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」幹部のアンワル・アル・アウラキ(40)が殺害された。

 アメリカの最重要ターゲットの一人とされてきたアウラキは、イエメンの首都サヌアから東へ約140キロの地点を車で移動中に、無人機による空爆を受けて殺害された。この攻撃で5人が死亡したが、目撃証言によれば遺体は判別がつかないほど焼け焦げていたという。

 アメリカのニューメキシコ州でイエメン人の両親のもとに生まれたアウラキは、アメリカ人として初めてCIAの「殺害・拘束」リストに追加された人物だ。

 09年のクリスマスに、米航空機爆破テロ未遂事件を起こしたナイジェリア人のウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブを勧誘したことで知られる。このテロが実行されていたら、アメリカ本土を狙ったものとしては9・11以来最悪の事件になっていたはずだった。

欧米はサレハの操り人形

 しかしアウラキ殺害を最も喜んでいるのはアメリカではなく、イエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領かもしれない。反体制派に即時辞任を迫られ、窮地に立たされているサレハだが、アウラキ殺害に乗じてアメリカからさらなる支援を取り付けるのではないかと懸念する声もある。アメリカはこれまでも、イエメンとサウジアラビアを拠点とするAQAPを打倒するため、サレハの治安部隊に莫大な資金を投入してきた。

「サレハ大統領は、アウラキ殺害を利用して政権に留まる時間を稼ぐつもりだ」と、イエメンのアル・アハレ紙の編集長アリ・ジャラディは語る。「国際社会は騙されてはいけない。サレハは権力の座にしがみつくためなら、何人でも殺すだろう」

 イエメンの著名な政治アナリスト、アブデル・ガニ・アリアニによれば、アウラキが過激なテロ扇動家に豹変したのはサヌアの政治犯収容施設に拘束されていたときだという。アウラキはそこで、後にAQAPを立ち上げた過激派の兵士たちと出会った。

「サレハ政権は長年、アルカイダを(欧米を動かすために)利用してきた」と、アリアニは言う。「政権はアルカイダと戦うという名目を掲げて欧米を操ろうとしている。実際は、アルカイダの戦闘員たちをかくまい、助け、扇動してきたのに」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中