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ソマリア難民を待つもう一つの飢餓の国

最悪の飢饉から逃れるため、ソマリアを脱出する難民が行き着く先は、同じように飢餓と情勢不安が深刻化するイエメンという悲劇

2011年8月29日(月)15時30分
アナソフィア・フラマンド

死に物狂い 以前からイエメンに逃れるソマリア難民は多かったが、ここにきて急増(写真は2008年12月、イエメン南部アワル) Khaled Abdullah-Reuters

 内戦と干ばつにより、過去60年間で最悪の飢饉にあえぐソマリアでは、海を渡ってイエメンへ逃れる難民がここにきて急増している。

 彼らは粗末な密航船にスシ詰めになって、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるアデン湾を横断する。しかし命の危険を冒してやっとたどり着く先は、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国だ。

 8月だけでも、既に3700人のソマリア難民がイエメンへ流入。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、月単位では今年に入ってから最も高い流入率だという。ソマリア難民の流入は今に始まったことではない。例年、多くの難民船がソマリア北部の港町ボサソからイエメンにたどり着くが、今年はピーク時期が早まっているようだ。

 ソマリア難民は、「不安定な治安や深刻な干ばつ、食糧価格の高騰や雇用難」から逃れようと、支援団体が呼ぶところの「世界で最も危険な亡命ルート」を渡ってイエメンを目指す。

「イエメンの情勢は極めて不安定だ。そんな国を逃亡先に選ぶということは、ソマリア難民がそれだけ死に物狂いだという証拠だ」と、UNHCRの広報官エイドリアン・エドワーズは先週末に語った。「彼らは、粗末な密航船に詰め込まれてアデン湾を渡る。危険な航海で命を落とす者も多い。月曜にも、ボートが転覆してソマリア人2人が溺死したばかりだ」

ケニアに流入する人数は減ったが

 イエメンでは、今年初めからサレハ大統領の即時退陣を求めるデモが続き、治安と人道問題が悪化の一途をたどっている。その一方で、今や中東地域で2番目に多い19万2000人のソマリア難民を抱えている。UNHCRによれば、そのうち約1万5000人は今年に入ってからイエメン入りしたという。

 他の周辺国の同じ状況かというと、そうでもない。ソマリアと国境を接するケニアでは、流入するソマリア難民の数は減少している。ケニアにいるソマリア難民は49万8000人近くに上るが、1日当たりの到着人数は従来の1500人から1000〜1200人にまで減少した。

 それでも、UNHCRは今後数カ月の間で、イエメンにたどり着くソマリア難民の数はさらに増加するとみている。「家を捨てた多くのソマリア人が、既にボサソで待機しているとみられる。彼らは海が静まるのを待ってから、密航するつもりだろう」と、エドワーズは言う。
 
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