最新記事

パキスタン

アメリカの無人機殺人を告訴する!

米軍の無人攻撃機の犠牲になったパキスタン人の遺族たちが、攻撃中止を求めてアメリカ相手に訴訟を起こし始めた

2011年7月19日(火)19時37分
ピーター・ゲリング

行き場のない怒り 無人機攻撃でパキスタン市民の反米感情は高まるばかり(ペシャワル、5月13日) K. Pervez-Reuters

 彼らには、他の選択肢はほとんどなかった。パキスタンの北ワジリスタンおよび南ワジリスタン地域で米軍が展開する無人機攻撃の犠牲になった人々の遺族が、アメリカ政府を相手取って法廷で戦おうと立ち上がり始めた。

 遺族らはこれまで大規模な抗議デモを行ってきたが、効果はなかった。パキスタン政府は同盟国であるアメリカに無人機攻撃の中止を求めることもできるが、遺族たちの働きかけも空しく何の進展も見られない。それもそのはず、パキスタン政府は表向きは無人機攻撃を繰り返し非難しているが、裏では青信号を出し続けている。

 もううんざりだ、と投げやりになった遺族は、過激派勢力に加わることすら考えるようになる。もちろん、それで何かが変わるわけではない。

 そんな行き詰った状況の中、遺族の一部は法廷という場に目を向け始めた。

 カリーム・カーンは、アメリカ政府を告訴した初のパキスタン人だ。09年に兄弟と息子を無人機攻撃で亡くしたジャーナリストのカーンは、弁護士を雇い、CIA(米連邦捜査局)の元イスラマバード支部長であるジョナサン・バンクスに対して5億ドルの損害賠償を請求。無人戦闘機は正確に標的を狙う力があり、一般市民を巻き添えにはしないというアメリカ政府の主張に、カーンは断固として挑む構えだ。

オバマ政権になってから攻撃が急増

 もっと最近の例では、無人機攻撃が承認された当初、CIAの顧問弁護士を務めていたジョン・リッツォに対する訴訟がある。イスラマバードの弁護士チームは先ごろ、一般市民が殺害されたことが分かっている最近の無人機攻撃20件以上から証拠を集めていると発表した。リッツォは罪のない一般市民の殺害に加担したと、アクバルは訴えている。弁護士チームを率いるミルザ・シャーザッド・アクバルは、リッツォが罪なき一般市民の殺害に加担したと訴えている。

 アメリカの無人機攻撃は04年、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の下で開始された。しかし攻撃が本格化したのはオバマ政権になってからで、とりわけ08年からパキスタンの部族地域で急増。今ではイエメンやソマリアにも拡大している。

 アメリカがこうした国々と戦争状態にあるわけではないことからも、無人機攻撃の合法性は非常に曖昧だ。「これはニュルンベルク裁判のようなもの。違法な命令に従った者は、罪に問われるべきだ。無実の人を殺せば、それは殺人だ」と、アクバルはメディアに語っている。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中