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対テロ戦争

ビンラディンより凶暴な後継者の正体

2011年6月17日(金)17時12分
C.M.セノット

 ザワヒリは80〜90年代、テロ攻撃でエジプトの観光産業に打撃を与え、ムバラク政権を打倒することに焦点を絞っていた。要するにエジプト政府を倒すためには手段を選ばないつもりだった。だが93年ごろ、当時スーダンを拠点にしていたビンラディンの部隊に参加。ビンラディンは、地元の独裁政権ではなく裏でその政権を支援しているアメリカに矛先を向けていた。ビンラディンはザワヒリのような古いイスラム過激派の戦いを再定義し、アメリカに対する「ジハード(聖戦)」に置き換えたのだ。これ以降、ザワヒリはこの考え方の熱心な信奉者になった。

 ザワヒリが狙うWMDによる攻撃は、ビンラディンよりも破滅的な結果を招きかねない。これが、ザワヒリ拘束を目指す米国家安全保障当局が最も恐れていることだ。ある安全保障担当の高官は、「砂時計の砂はどんどん落ちている。(ビンラディンの隠れ家から得た)新たな情報を駆使して彼の居場所を突き止める必要がある」と言う。

ビンラディンが今死んだ意味

 また別の政府高官は5月の記者会見で「ビンラディンはアルカイダの22年の歴史の中で、唯一無二の司令官だった。アルカイダの大きな精神的支柱でもあった。暴力的な聖戦士をひきつけ、アメリカをテロ攻撃のターゲットにした」と語った。「これまで拘束したアルカイダ幹部数名によれば、世界中で崇められる唯一の指導者として、ビンラディンは組織の結束を維持してきた。後継者のザワヒリには彼ほどのカリスマ性はないし、組織内でもあまり尊敬されていない。湾岸アラブ諸国にいる多くの支持者たちの忠誠心を維持するのは難しいだろう」

 この政府高官によれば、アルカイダは「直ちに分裂することはないかもしれない。だが、ビンラディンを失ったことで組織として衰退する道をたどり始めており、もう後戻りできない」状況にある。アラブ世界の多くの若者が、アルカイダの殺戮の論理でなくSNSを通じて権力に立ち向かうことを支持している点もザワヒリにとっては弱みになりかねない。

「アラブ世界で自由と民主主義を求める運動が起きたまさにそのタイミングで、ビンラディンは死んだ」と、この高官は言う。「中東と北アフリカの偉大な人々は、個人の権利と人間の尊厳ために自分たちの命を捧げた。ビンラディンはまさにその対極の存在だった」

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