最新記事

アメリカ経済

石油危機という名の時限爆弾

2011年3月11日(金)14時43分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 エジプト危機で世界中が思い知った事実がある。私たちがどっぷり依存している石油市場は、不測の政治動乱というリスクを常に抱えているということだ。

 ただし主要産油国ではないエジプトの原油生産がストップしても大きな問題にはならないだろう。この国の原油生産量は日量70万バレルと、世界の1日の需要量約9000万バレルに比べれば微々たるもの。世界では日量400万バレルの余剰原油があるので、エジプト分はこれで賄える。

 影響があるとすれば輸送面だろう。紅海と地中海を結ぶスエズ運河とスメドパイプラインで運ばれる原油は1日300万バレル。これらの輸送路が封鎖されれば原油価格の上昇はほぼ確実だ。

 それでもほかの輸送路の確保が可能なことを考えれば、本当に警戒すべきなのは政治動乱の連鎖が起き、主要産油国からの供給が途絶えることだ。サウジアラビア(日量850万バレル)、クウェート(230万バレル)、イラン(370万バレル)、イラク(240万バレル)、アルジェリア(130万バレル)に原油を頼るリスクは、エジプト危機の結末にかかわらず今後も残る。

 将来的なリスク回避のためにできることは2つある。油田掘削の規制を緩和して産出量を増やすこと、ガソリン税を上げて石油消費を減らすことだ。

ひるまず海洋油田の掘削を

 オバマ米政権はこれらに手を付けず、代わりに15年までに100万台の電気自動車を普及させると喧伝する。だが昨年末に発売されたゼネラル・モーターズ(GM)のシボレー・ボルトの初年度見込み販売台数が2万5000台であることを考えれば、この目標は実現不可能だろう。たとえ100万台売れても、石油消費の節減量は1日4万バレルほど。アメリカの1日当たり消費量1900万バレルの0・2%だ。

 その一方、オバマ政権の油田掘削規制のおかげで失われた原油産出量は12年には日量20万バレルに上るとみられる。メキシコ湾での掘削施設爆発事故に過剰反応した結果だ。掘削技術の向上で産出量の増加が見込まれるにもかかわらず、地上油田の掘削も奨励されていない。

 ガソリン税は、経済回復を妨げない程度に上げることでガソリン価格の激しい変動を防ぐことができる。環境に優しい車の人気向上にもつながるだろう。

 石油大手エクソンモービルの最新調査によると、30年までに世界の小型自動車台数は50%増の12億台に達する。そのほとんどがガソリン車だという。石油供給をめぐる競争がますます激化する中、石油中毒からの脱却を真剣に考えなければならない。

[2011年2月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中