最新記事

中東

スエズ運河を窺うイランの思惑

エジプト混乱に乗じて支配下のスエズ運河を軍艦で通ろうとするイランの挑発に、イスラエルが反発

2011年2月18日(金)16時59分

新たな火種 イラン軍艦がスエズ運河を通れば79年以来初めて Reuters

 イランが軍艦をスエズ運河を渡らせ地中海に送り込むという「挑発的な」計画を中止した。2月17日、エジプト当局者が発表した。理由については語られなかったが、この当局者によるとイランの軍艦2隻(フリゲート艦と補給艦)がサウジアラビアの紅海沿岸の都市ジッダ付近に停泊しているという。

 イランの軍艦がスエズ運河を通過すれば、1979年のイラン・イスラム革命以来初めて。スエズ運河の航行にはエジプト政府の許可が必要だが、イランはエジプトと国交断絶状態にある。エジプトがイラン革命で国を追われたバーレビ国王の亡命を受け入れたためだ。エジプトがイランと敵対するイスラエルと平和条約を結んでいることも関係している。

 そのイスラエルのアビグドル・リーベルマン外相は16日、イランのスエズ運河通過計画を明かし、声高に非難していた。リーベルマンはイランは西側諸国を挑発しているとし、イスラエル政府は「このようは挑発行為をいつまでも看過するわけにはいかない」と激怒。このニュースを受けて、水曜には原油価格が急騰した。

 リーベルマンは、イランの軍艦はシリアに向かう予定だと述べていた。この点に関してイラン政府の確認は取れていないが、シリアと言えば、イスラエルの天敵だ。イスラエルの指導部は、イランがチュニジアやエジプトの民衆革命による中東の情勢不安を好機と捉え、利用してくる可能性があると警戒心を募らせていた。親米・新イスラエル寄りだったムバラク政権崩壊後の混乱につけ込まれたくはない。

アメリカは静観の構え

 一方、アメリカ政府はイラン船のスエズ運河通過をそれほど危険視していないようだ。イランは数週間前に、既にこの計画を発表していた。

 米国務省のフィリップ・クラウリー報道官は紅海にイラン船が停泊していることは知っているが、米政府はその行き先も目的も把握していないと語った。米政府これらの船の動きを監視しているのかと聞かれると、「われわれは常にイランの行動に目を光らせている」と述べた。
 
 ただし米政府当局者のなかには、イランがスエズ運河に軍艦を送るのはアメリカとイスラエルを挑発して反応を見るためだと語る者もいる。

 エルサレムで開かれたユダヤ系アメリカ人の会合で飛び出した先のリーベルマンの発言は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を驚かせたという。イスラエル国防省としてはイランの動きを「無視したかった」のにリーベルマンが先走って余計な発言をしたと、イスラエル国営放送の軍事担当記者ヨアブ・リモールは米ウォールストリート・ジャーナル紙に語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質1人の遺体を引き渡し 攻撃続き停

ワールド

トランプ氏、米国に違法薬物密輸なら「攻撃対象」 コ

ビジネス

米経済、来年は「低インフレ下で成長」=ベセント財務

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長にハセット氏指名の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中