最新記事

南アフリカ

ようこそコンドーム大国へ

世界最悪レベルのHIV感染率と闘うため、政府やNGOが無料コンドームの大量配布に乗り出した

2011年1月20日(木)10時52分
イバ・スコッチ

使用率99%? サッカーW杯の開催前にNPOが配ったコンドーム JOHN MOORE/GETTY IMAGES

 ジュリー・ペローニ(26)は、恋人との初めての夜を心待ちにしていた。「なのに彼ったら、政府のコンドームを出すの! 私が政府のコンドームを使う男と付き合う女に見える?」

「政府のコンドーム」とは、南アフリカ政府が性感染症(STD)、特にエイズ対策として無料で配布しているコンドームだ。

 貧富の差が激しい南ア社会で、政府のコンドームは格差を示す新たな指標にもなった。金持ちは潤滑ジェルや香り付きのコンドームを買い、貧しい人々は無料配布に頼るしかない。

 無料コンドーム「チョイス」の濃紺に黄色い円をあしらったやぼったいパッケージはひと目で分かる。若者の声は「歓迎、避妊に金を払う人の気が知れない」から「政府の支給物なんて信用できない」までさまざまだ。

 そのデザインと質に顔をしかめる向きは多いが、政府の取り組みは真剣だ。街にはセーフセックスを訴える広告があふれ、高速道路には「『酔った勢い』が命取りにならないようにコンドームを」の看板。ポルノ産業までが啓蒙活動に励み、キャスト全員がコンドームを着けた作品が制作された。

 ターボ・ムベキ前大統領がエイズ問題をかたくなに無視した10年前を思えば、隔世の感がある。ジェイコブ・ズマ現大統領はセーフセックス教育を奨励し、コンドームの大量配布に本腰を入れた。ケープタウンだけで、配られる数は毎月100万個。15歳以上の男性全員に年間104個が行き渡る計算だ。市の保健局は特に貧困地区での配布に力を入れる。

99%の売春婦が使用した

 ケープタウン市保健局のバージニア・アザベドによれば、問題はコンドームが確実に人の手に渡るようにすること。「コンドームの段ボール箱をバーに置いても、椅子として使われるのが関の山」だと彼女は言う。

 人々の手に渡っても、使ってもらわなければ意味がない。性産業従事者の権利向上を目指すNGO(非政府組織)「スウェット」のダイアン・マサウェはコンドームをばらまくだけでは足りないと語る。「セーフセックスを訴えても、感染率は上がるばかり。感染の怖さを実感していない人々は、今日飢え死にするより10年後にエイズで死んだほうがましだと考える」

 スウェットは現在、性産業従事者のために「口で客のペニスにコンドームを着ける方法」など、ひねりを利かせた啓蒙プログラムを展開している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争後の平和確保に協力とトランプ氏、プー

ビジネス

中国、TikTok巡る合意承認したもよう=トランプ

ワールド

米政権がクックFRB理事解任巡り最高裁へ上告、下級

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBの慎重姿勢で広範に買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中