最新記事

パレスチナ

ハマス指導者「選択肢は抵抗しかない」

イスラム過激派ハマスの指導者メシャルが語るイスラエル攻撃と中東和平交渉、イランの無条件支援

2010年11月24日(水)14時43分

テロリストと呼ばれて 「フランスはレジスタンス、アメリカは独立戦争なのに、なぜパレスチナは例外なのか」 Muhammad Hamed -Reuters

 パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの政治部門指導者ハレド・メシャル(54)ほど評価が真っ二つに分かれる人物は中東でもほかにいない。

 多くのパレスチナ人にとってのメシャルは、急進的民族主義の体現者。一方イスラエルの人々にとっては、ユダヤ人を殺す自爆テロやロケット攻撃の黒幕だ。イスラエルの情報機関モサドは97年、彼の耳に神経毒を噴き付けて殺そうとした。一命を取り留めたメシャルはハマスで出世し、今はシリアの首都ダマスカスからハマスを動かしている。

 本誌ベイルート支局長のババク・デガンピシェとラーニャ・カドリが先週、メシャルに会って話を聞いた。


──イスラエルが67年の国境線まで撤退することを前提とした、イスラエルとパレスチナの2国家共存方式を受け入れる気はあるか。

 実現の可能性はほとんどない。パレスチナ人はある立場と目標を共有している。67年当時の国境を有し、エルサレムを首都とするパレスチナ国家をつくることだ。その国家は、領土と国境について真の主権を保有する。そしてユダヤ人入植地は存在させない。

──中東和平交渉でハマスが果たす役割は。

 これまでの交渉の教訓は、イスラエルはよほどの圧力がかからない限り決して67年の国境まで退いたりはしないということだ。もちろん外交や政治による解決手段も存在はするが、ここでの選択肢は抵抗しかない。

──軍事攻撃をやめる条件は。

 私は物理学者で、物理学や数学の方程式を信じている。この争いは、始まりも終わりもない悪循環などではない。この紛争はイスラエルによる占領で始まり、占領の終結によって終わる。

 確かに抵抗には犠牲と苦痛と高い代償が伴う。だが、なぜパレスチナの抵抗だけ例外扱いされるのか。占領下のフランス人がナチスと戦ったとき、彼らはレジスタンスと呼ばれた。植民地のアメリカがイギリスと戦ったときは独立戦争と呼ばれたのに。

──この戦いはどの程度個人的なものか。

(イスラエルのベンヤミン・)ネタニヤフ首相との争いは個人的なものではない。われわれは国家的視点に基づいた計算をしている。

──ネタニヤフと交渉のテーブルに着く気はあるか。

(笑)私は結果にしか関心がない。パレスチナ人が自由と権利を手に入れ、イスラエルによる占領と入植を終わらせて自決権を持つ主権国家で自由に生きるのが目標だ。

──近い将来、パレスチナの穏健派主要組織ファタハとの関係を改善できる見込みは。

 なぜファタハとの対立が始まったと思うか。それはアメリカや国際社会、近隣諸国までが、06年(にハマスが圧勝したパレスチナ評議会)の選挙結果を認めなかったからだ。こうした態度は欧米の原則に反するはずだが。

 分裂がハマスにとってもパレスチナにとってもよくないことは分かっている。だがこれはわれわれが望んだ事態ではない。追い込まれたのだ。

──ハマスはイランからカネや武器、軍事訓練を受けているか。

 武器については軍事部門に聞いてほしい。カネについては、無条件の援助である限り、ハマスはどこの資金援助も歓迎する。

──イランは無条件で資金支援をしているのか。

 もちろんだ。他の国々からも同様の支援を受けている。

──もし2国家共存で和平が成立したとすると、政府内でのあなたの地位はどうなるか。

(笑)地位などどうでもいい。それまで私が生きているという保証はない。大事なのは、パレスチナ人が自由を勝ち取ることだ。

[2010年10月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者が米非難、イスラエル支援継続なら協

ビジネス

次回FOMCまで指標注視、先週の利下げ支持=米SF

ビジネス

追加利下げ急がず、インフレ高止まり=米シカゴ連銀総

ビジネス

ECBの金融政策修正に慎重姿勢、スロバキア中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中