最新記事

外交

米中友好関係はもう終わりなのか

アメリカでも中国でも政府は国内強硬派の圧力にさらされ、「世界で最も重要」な2国間関係がいよいよ揺るぎ始めた

2010年11月1日(月)16時48分
マイケル・フリードマン

 中国政府が為替相場を操作している疑いがある、と9月半ばに米上院銀行委員会が開いた公聴会。議員たちはテレビカメラに向かって決して中国に妥協しない姿勢をアピールした。私はアメリカの労働者を断固として守る、という有権者向けのパフォーマンスである。

 その様子を見守っていた者がほかにもいる。中国政府だ。ただ米中関係が急速に冷え込みつつあることは周知の事実だ。中国の外交官、財界人、米中関係の研究者たちにとって「アメリカの景気回復の喉元を踏みつけている」(チャールズ・シューマー上院議員)といった強硬発言は目新しいものではない。

 バラク・オバマ米大統領は政権発足当初、米中関係を重視する姿勢を繰り返し、両国関係が「世界で最も重要な2国間関係」だと語っていた。そのオバマが今年に入って突然心変わりした──中国側はそう受け取っている。

疑念を募らせる中国側

 中国にすれば、オバマが共通の利益を目指して協調している相手にはとても見えない。何しろオバマは今年1月、中国とかつてなく良好な関係を維持している台湾に64億ドル相当の武器を売却する計画を発表。2月にはチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世とホワイトハウスで会談したのだから(昨年訪米したダライ・ラマにオバマは会わなかった)。

 いずれも中国の「核心的利益」を脅かす行為だ。7月にはヒラリー・クリントン米国務長官が中国と東南アジア諸国がもめている南シナ海の領有権問題にアメリカが今以上に関わる姿勢を示し、中国側をいら立たせた。

 さらに8月になってアメリカとベトナムが原子力協定締結に向けた交渉に入ったことが明らかになり、その後には米韓連合軍司令部が黄海で合同演習を行う計画を発表、軋轢が一層高まった(中国外務省の陸慷[ルー・カン]国際局副局長は、中国がメキシコ湾で演習を行ったらアメリカはどう思うかと息巻いた)。

 一連の動きに中国側は疑念を募らせている。オバマ政権は中国と本気で協力体制を築く気があるのか。それとも日本、韓国その他のアジア諸国と組んで中国包囲網を築く気なのか。

 アメリカ側にも現状を危ぶむ声はある。非営利団体アジア協会のジェーミー・メツル副会長は、中国の対米姿勢が「根本的」に変わった可能性があると見ている。メツルら中国ウオッチャーによれば、中国は経済力にものをいわせ、より強い発言権を行使する方針に切り替えたようだ。

2012年の党大会をにらんで

 一方のオバマ政権は、今までどおりのアメリカの国益を守ろうとしている。「中国はアメリカが自らの国益と役割を定義し直すと思っていたのに、その期待が裏切られた。そこが問題なのではないか」と、リベラル系のシンクタンク、アメリカ進歩センターの研究員ニナ・ハチギアンは言う。

 とはいえ、トップレベルでは関係改善に向けた動きも進んでいる。トム・ドニロン大統領次席補佐官(国家安全保障問題担当)とローレンス・サマーズ国家経済会議(NEC)委員長が9月上旬に北京を訪問。続いて9月23日には、オバマと温家宝(ウエン・チアパオ)首相がニューヨークで会談した。年内にはオバマと胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の会談も予定されている。オバマは東アジアの同盟国と引き続き強固な関係を築きつつ、中国とも緊密な協力関係を築きたいと、重ねて強調するだろう。

 不安材料もある。米中ともに強硬路線を取らざるを得ない国内事情があることだ。アメリカは10%近い失業率が続くなか、中間選挙を迎えようとしている。米議会が貿易や為替問題で中国バッシングに傾斜しているのは、対中強硬姿勢を取れば、手っ取り早く有権者の支持をつかめるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、米株安や円高嫌気し4万円

ワールド

ハマス「人質に援助提供の用意」、衰弱した男性映像に

ビジネス

豪ブルースコープ、ワイヤラ製鉄所買収へ企業連合結成

ビジネス

アングル:米雇用大幅下方修正と局長解任、データ信頼
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザベス女王の「表情の違い」が大きな話題に
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    すでに日英は事実上の「同盟関係」にある...イギリス…
  • 10
    なぜ今、「エプスタイン事件」が再び注目されたのか.…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 6
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中