最新記事

朝鮮半島

ロナルド・レーガンに似てきた李明博

危険で野蛮な政治体制に真っ向から異議を唱える李の姿はソ連を「悪の帝国」と呼んだレーガンと重なる

2010年10月20日(水)15時02分
アンドルー・ナゴースキー(元ベルリン支局長)

 韓国と北朝鮮に和解の兆しが見えてきた──こんな勘違いをしてはいけない。確かに両国は最近、南北の離散家族を再会させることや、韓国が北朝鮮の水害復興のために850万ドルを支援することを協議してきた。

 とはいえ、こうした動きとは裏腹に、韓国は基本的に対決姿勢へと移行している。李明博(イ・ミョンバク)大統領の姿勢が、かつて共産主義を「悪の帝国」と呼んで攻撃したロナルド・レーガン元米大統領にますます似てきたのだ。

 08年に大統領に就任して以来、李はそれまでの政権が推し進めた北朝鮮との融和を目指す「太陽政策」を転換。金正日(キム・ジョンイル)の独裁政権に大盤振る舞いの経済援助をしたにもかかわらず、その好戦的な態度は変わらなかったと、前任者の金大中(キム・デジュン)や盧武鉉(ノ・ムヒョン)を非難した。

 北朝鮮は核開発やミサイル発射実験などの挑発的行為をやめようとしなかった。今年3月に韓国の哨戒艦が魚雷攻撃を受けて乗組員46人が死亡した事件を機に、李政権は一段と態度を硬化させた。

ついに「統一税」に言及

 韓国政府は、哨戒艦沈没は北朝鮮によるものだと非難し、北朝鮮政府を「主敵」であると表現した。この強い言葉を使うのは実に6年ぶりのことだ。

 また北朝鮮が謝罪しない限り支援を打ち切ると発表した。当然ながら北朝鮮は謝罪していない。今回の水害被害へのささやかな支援の申し出も、両国の冷え切った関係を改善する上では何の役にも立っていない。

 李は8月、さらに一歩踏み込んだ。9月半ばに予定されていた朝鮮労働党代表者会で、金正日の三男ジョンウンが後継者に名乗りを上げるかと推測されていた時期だ。そんな時期に、李は北朝鮮政権の正統性をあからさまに否定するような発表をしている。

 李は金一族支配の終焉を想定しているかのように、韓国が半島統一に「向けて現実的な政策を議論する......時期が来た」と宣言した。この政策には、韓国が北朝鮮を併合する際に備えた「統一税」の導入も含まれていた。

 9月9日にモスクワを訪問した李は、発言当時に念頭に置いていたのは平和的な南北統一に向けた緩やかなプロセスで、北朝鮮の崩壊ではないと語っている。だが、この弁解は単なるトーンダウンにすぎず、李が本気で金正日体制の終わりを想定している事実は変わらない。

 この時期の統一税への言及は、かつてレーガンがソ連国民にベルリンの壁を「壊せ」と呼び掛けたのに似ている。どちらも、あなた方の政治体制は消える運命にあり、いずれは私たちが吸収する、と言うに等しいからだ。

 先週、韓国の全国経済人連合会は、南北統一に掛かるコストはおよそ3兆ドル、つまり東西ドイツの統一時よりも1兆ドル多く掛かると試算した。

 その違いはどこにあるのだろう。東ドイツはソ連の衛星国の中で最も孤立して抑圧されている国だと考えられていた。

 北朝鮮の孤立度と経済の落ち込みは、当時の東ドイツよりも大きい。北朝鮮の5歳未満の幼児の3分の1は栄養不良。93年から08年までに死亡率は子供でも大人でも30%ほど上がっている。

ルーマニアのように?

 昨年11月に実施したデノミ(通貨単位の呼称変更)と新旧通貨の交換によって、国民のささやかな蓄えは消え去った。国民の間では不満が高まり、闇取引がさらに横行していると伝えられるが、金支配への表立った抵抗の気配はない。

 東ヨーロッパの社会主義体制の崩壊が与えた教訓の1つは、抑圧的であればあるほど、崩壊は暴力的になるということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の副大統領候補、ほぼ男性一色 ノースダコ

ワールド

世界の金ETF、5月は1年ぶりに資金流入=WGC

ビジネス

景気動向一致指数、4月は前月比1.0ポイント上昇 

ワールド

南ア経常収支、第1四半期は赤字縮小 貿易黒字は拡大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 8

    正義感の源は「はらわた」にあり!?... 腸内細菌が…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    世界大学ランキング、日本勢は「東大・京大」含む63…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中