最新記事

チリ落盤事故

世紀の救出作戦で目障りだったあの人

2010年10月14日(木)17時09分
パスカレ・ボネフォイ

 世論調査への影響を慎重に計算しつつ、ピニェラは中道左派もかくやという決定を行なっては世間を驚かせている。ちなみにピニェラの右派政権が誕生するまで、チリでは20年間、中道左派政権が続いていた。

 8月にはピニェラは一方的に、自然保護区の近くで予定されていた火力発電所の建設計画を中止させた。この計画には地元住民や環境保護活動家らの反対運動が沸き起こっていた。

 またピニェラは、チリ経済を立て直す費用を捻出するために鉱山の採掘権料の引き上げを示唆して敵も味方をも驚かせた。出身母体である経済界とあからさまに対立する案だったからだ。

救出費用の出所は不明

 今回の救出劇のテレビ中継では世界が見つめる中、危機を前にしたチリ政府の精神力と能力が国際的に試されていた。だが一方で、救出劇のせいで同じくらい差し迫った問題の存在が覆い隠されてしまった。

「まったく不条理だ。救出劇を見ていると、地震なんてなかったみたいだ。まるで忘れ去られている」とウネエウスは言う。

 ピニェラが大統領に就任したのは、チリ史上最大の地震と津波が発生した2週間後だった。それから8カ月。一部の被災地の住民たちは、最初の緊急局面をいまだに乗り越えられていないと感じている。

 先週、タルカやディチャト、タルカウアノといった被災地の住民組織が互いの状況を報告するための集会が開かれた。復興計画の策定に地域社会が参加できないことに批判が集まり、少なくともタルカとディチャトはいまだに「危機的状況」にあるとの声が出た。

 タルカでは2800戸の仮設住宅の建設が約束されたのに、実際に完成したのは1300戸にすぎないと、非政府組織「タルカとみんな」のギジェルモ・レタマル事務局長は言う。「補助金は交付されず、いまだにテント暮らしの人もいる。非常事態は終わっていない」

 地震の被害額は推計で国内総生産(GDP)の14・9%にあたる297億ドル。公共インフラの再建費用はGDPの4・2%近くに達するという。

 今回の救出劇のための巨額の費用はどのように捻出されたのか。なぜ地震からの復興のために必要としている人々のもとにカネは回ってこないのか。これについて進んで話してくれる政府関係者はいない。

「政府は鉱山作業員の(救出)問題を非常にうまくさばいた。地震による緊急事態への対処も適切だった。だが復興(への対処)となるとそうでもない」と、バチェレ前大統領の顧問だったディアスは言う。「報道に持続的な影響を与えるのは緊急事態に対する最初の対応だ。だから国民の政府に対するイメージは悪くなっていないのだ」

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、月間では主要通貨に対し2%

ワールド

トランプ氏、議会承認済みの対外援助予算を撤回へ 4

ワールド

訂正-トランプ氏、ハリス前副米大統領の警護打ち切り

ビジネス

再送米PCE価格、7月前年比+2.6% コアは5カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中