最新記事

イラク

戦闘部隊撤退でもイラク戦争は終結せず

駐留米軍の戦闘部隊の撤退が完了しても、残る米兵5万人は対テロ戦を続け、民間警備会社による「増派」も課題に

2010年8月20日(金)16時56分
ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

祝福の敬礼 クウェートとの国境で撤退してきた米軍の最後の戦闘部隊を出迎える将官(8月18日) Department of Defense-Reuters

 イラク駐留米軍の最後の「戦闘」部隊が撤退を完了したニュースはもう耳にしたことだろう。メディアは第4ストライカー(装甲車)旅団第2歩兵師団が、イラク南部の砂漠地帯からクウェートとの国境へ向かう様子を大きく報じた。国境を越えた瞬間には、兵士らが歓喜の声を上げる姿が映し出された。

 しかし、これでイラク戦争が終わったわけではない。イラクには今も5万人以上の米兵と、そして彼らが所持するM16自動小銃やレーダーミサイルなどの兵器が残されている。彼らが一夜にして、平和部隊へと変身できるものでもない。正直に言おう。最後の戦闘部隊の撤退は、さして重要な出来事ではない。

 イラク政府のある高官は米軍の撤退期限について問われ、肩をすくめてこう言った。「すべてはアメリカの中間選挙だ」
 
 ひねくれた見方ともとれるが、あながち間違いではない。8月末を期限とした兵力の縮小は、イラク駐留米軍のあり方を見直したというより、米政権の政治的な判断に基づいたもの。最後の戦闘部隊の撤退が、イラクにおける戦闘の終結を告げるものでは決してない。

米軍はまだ銃を置いていない

 実際のところ、2011年末と定められた完全撤退の期限までに、残った兵士たちが戦闘に巻き込まれる可能性は高い。米軍のステファン・ランザ広報官は先週のインタビューで、駐留米軍の今後の任務は以下の3点に集中すると説明した。テロ対策、復興支援、イラク治安部隊の訓練。テロ対策がまだ残されていることを見れば、米軍がまだ銃を置いていないのは明らかだ。

 最近は都市部で米兵の姿を見ることも少なくなったが、米軍の大型基地はまだイラク国内に存在している。戦闘部隊の撤退後も米軍はイラクに94カ所の基地を維持していく予定だ。

 公平を期して言うならば、米軍はここ数カ月にわたって縮小を続けるなかで、ロジスティックス面では素晴らしい功績を上げたといえる。貯水タンクや発電機など9860万ドル相当の軍事備品80万2000点を、イラク政府や関係機関に譲渡したと、米軍の資料にはある。イラク国防省は21万点、5960万ドル相当を、内務省は49万点、2100万ドル相当を受け取った。約66万人のイラク治安部隊が、これらの備品をどれだけうまく活用できるかは不透明だが。

頼りないイラク警察

 イラクとアメリカの当局者は一様に、イラク警察よりはイラク軍の能力に信頼を置いているようだ。警察は06〜07年、国内の一部地域で起きた宗派抗争に積極的に関与していた。採用基準を厳格にしたり民兵と関係のある者を排除するなどイラク警察にも努力が見られるが、彼らはやはりイラク治安部隊の中では最も不安定な存在だ。この状況が短期間で劇的に改善するとも思えない。

 イラク警察の訓練の一部は既に米軍からイラク当局の手に引き継がれており、2011年秋までには完全にイラク側に委ねられる予定だ。イラク当局はこの任務を遂行するため、民間の警備会社を頼らざるを得なくなるはずだ。

 警備会社はイラク当局の設備や人員を守るため、社員を増員してイラク国内でのプレゼンスを高めるだろう。つまり、今月末という米軍の撤退期限について注目すべきなのは「戦闘」任務の終わりではなく、民間警備会社の「増派」が始まるということだ。そしてイラクでこれまで警備会社が起こしてきた事件を考えれば、そこには多くの問題が待ち構えていることだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=

ビジネス

先週末の米株急落、レバレッジ型ETFが売りに拍車=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中